日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『山と食欲と私』
『山と食欲と私』第1巻
信濃川日出雄 新潮社 ¥520+税
(2016年4月9日発売)
「ひとりであること」をネガティヴではなくポジティブに謳歌する、「おひとりさま女子」を主人公にしたマンガは、今や女性のみならず男性からも人気だ。
本作の主人公・日々野鮎美は「山ガール」と呼ばれることを嫌う、自称「単独登山女子」。
普段はOLとして働くが、休日に山に登ることを無上の楽しみとし、平日もビルの影でスクワットをしてからランチをとるなど、山中心の生活を送っている。
だれにも邪魔されず、自分のペースで山に登りたいという理由で単独登山を好む彼女が、ひとり黙々と山を登る姿がなんともすがすがしく、気持ちがいい。
仕事や地上の人間関係からしばし離れ、我が肉体をもって山を、自然を体感し、一心不乱にごはんをほおばる。そんななにものにもとらわれない魂の解放という意味では、『孤独のグルメ』にも通じる魅力アリ。
ガソリン補給に立ったまま、ほおばる塩おにぎり、ちょっと高級なソーセージを丸ごと入れたインスタントラーメン、飯ごうごはんのオイルサーディン丼、ルーを溶かすだけのホワイトシチューパスタ、挽きたて淹れたて珈琲……などなど、彼女が毎回食べる「山ごはん」がまた、なんともいえずおいしそうで。
読んでいると、コレが食べたいがために山に登りたくなってしまう。
前日に家でいそいそと仕込みをする様子もじつに楽しそうで、鮎美のあまりのひとり上手っぷりに苦笑しつつ、こんなふうに没頭できる自分の世界があるっていいな~とホッコリ。
山と食欲さえあれば、独居老人も怖くなくないかも!?
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69