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【きょうのマンガ】9月5日は日本で初めて国民栄誉賞が授与された日! おすすめするのは『YAWARA!』!

2014/09/05


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『YAWARA! 完全版』第1巻
浦沢直樹 小学館 \1,100+税


1977(昭和52)年9月5日、王貞治に第1号となる国民栄誉賞が授与された。その2日前の9月3日に、ハンク・アーロンの記録を抜いて世界一となる756号ホームランを達成した直後の授賞である。ときの内閣府がこの賞を設立したのも、この世界記録樹立を見すえてのこと。新記録にあと40本と迫って迎えた1977年は、シーズン開幕時からマスコミの注目も高まり、まさに全国民が記録達成の瞬間を待っていたのである。

国民栄誉賞という賞は、昨今「授賞の基準がよくわからない」などと言われもする。必ずしも数字的な記録が重視されるわけではなく……創設の目的には「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」とある。たとえばスポーツ選手以外では長谷川町子(漫画家)、美空ひばり(美空ひばり)、黒澤明(映画監督)、古賀政男(作曲家)、植村直己(冒険家)といった顔ぶれからなんとなく雰囲気はつかめるだろうか。

『YAWARA!』のヒロイン・猪熊柔は、著名な柔道家である祖父の手ほどきを受け、「金メダルを獲れ」「国民栄誉賞を獲れ」と言われながら育てられたサラブレッドだ。当人は女の子らしくオシャレや恋愛を楽しむ生活が送りたいと反発しつつも、やがて自分のなかに根づいていた柔道への情熱を認め、国際舞台で活躍するに至る成長物語だ。
連載開始は1986年。じつは、女子柔道がオリンピックの正式種目となったのは1992年のバルセロナ五輪からである。柔は1988年のソウル五輪(公開競技)、バルセロナ五輪に連続出場し、計3個の金メダルを獲得。そして祖父が願ったとおりに国民栄誉賞も掌中におさめてしまうのだ。

作中で黒星がついたのは不戦敗の1敗のみと、まさに無敵。かわいらしいルックスのうちに秘めた根性、心優しくてちょっと天然で……年頃の女の子らしい本音をあっけらかんと口にする柔の主人公像は、今も新鮮かつ共感を呼ぶ。
柔を追いかけるスポーツ新聞記者、国内外のライバルたち、柔道家として将来を嘱望されながら姿を消した父との因縁など、豊かな人間ドラマを絡めつつ柔道というスポーツのおもしろさをしっかりと伝える筆力は圧倒的だ。
現在、雑誌掲載時のカラーページを収めた完全版が刊行中。描きおろしのカバーイラストではさまざまなファッションの柔に出会える!

ちなみに女子柔道を盛り上げた本作の大ヒットとともに、当時リアル世界で柔道界のヒロインを張ったのが17歳で五輪デビュー(バルセロナ大会)した谷亮子(当時は田村亮子)。マンガ顔負けの強さに加え、柔のトレードマークであるちょんまげヘアを取り入れて“ヤワラちゃん”と呼ばれた彼女が国民栄誉賞を受賞していないのは、意外な事実だ。もしかして活躍した時期があまりに長すぎて授賞のタイミングが図りづらかったのかも……。



<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ド少女文庫

単行本情報

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