『あさひなぐ』第12巻
こざき亜衣 小学館 \552+税
(2014年7月30日発売)
二ツ坂高校に入学した、東島旭(あさひ)。中学までは美術部で、高校生になって自分を変えたいと思っていた旭は、先輩のある誘い文句をきっかけに、運動部に入部することを決める。
その部活は薙刀部。誘い文句とは、薙刀だったらスポーツ経験がなく、運動音痴でも全国にその名を轟かすことができる……というもの。
自分を誘ってくれた2年のエース・宮路真春(まはる)を憧れに、旭は持ち前の根性で薙刀に励む。
薙刀という、ややマイナーな武道が題材だが、本作のスポーツマンガとしての魅力は、いい意味でオーソドックスなもの。
いや、オーソドックスと言ってしまうと、それはそれで誤解されてしまうかもしれない。たとえば、天才選手と、一点突破の才能を持った選手、また弱くてもやる気や情熱がある選手、作戦や運で勝ち進んでいく選手……それがスポーツものの定番スタイルだろう。
しかし、本作はそうではない。才能は感じさせても、技術と体力が追いつかないかぎり、それは発揮されず、加えて努力や負けん気だけじゃ勝てないということを、真正面から描いていく。
だからこそ、「思い」こそが大切なんだということを説く。スポーツの基本姿勢というものが、そこにあるわけだ。
決して奇はてらっていない。コツコツとやることを、コツコツと描く真摯なおもしろさが、本作にはある。
最新12巻は、強豪高校・熊本東高校との団体戦から幕を開ける。加えて描かれるのは、真春の弟で薙刀経験者でもあり、旭とお互い意識し合っているテニス部1年の夏之との関係、同じ1年の紺野さくらが薙刀部を退部するというエピソード。
そこに何か劇的な盛り上がりや衝撃の展開があるわけじゃない。でも、抜群におもしろいのだ。
ちばあきおによる『キャプテン』や『プレイボール』といった名作スポーツマンガにもつうじる魅力を持った、この先がますます楽しみな作品である。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。