『ラストイニング』第44巻
神尾 龍(作)中原 裕(画)加藤 潔(監) 小学館 \596
(2014年6月30日発売)
かつて甲子園初出場・初優勝を果たした名門にもかかわらず、廃部寸前に追い込まれていた彩球学院高校・野球部を「甲子園に連れていく」と約束した鳩ヶ谷圭輔の戦いは終わった。
鳩ヶ谷は詐欺師まがいの商売に身を沈めていたダーティーヒーローだが、その実態はアラサーとなった今でも自身の“ラストイニング”を引きずっている生粋の野球バカである。だからして負けても「ナイスゲーム!」なんて欺瞞は許さない。
上っ面の美徳である「さわやか、ひたむき、正々堂々」は禁句。徹底したデータ野球で相手の穴を付き、心理的な駆け引きを行い、奇襲を仕掛け、かく乱し、勝つことの喜びを選手たちに叩き込んでいった。
初期の頃こそ、トリッキーな練習方法が試合結果につながるようなカタルシスもあったが、めきめきと力をつけてきた選手たちには、だんだんと必要なくなっていく。
鳩ヶ谷の教えをスポンジのように吸収していく頼もしいキャッチャー・八潮を筆頭に、選手たちは自分たちの頭をフルに使って試合を組み立て始めるのだ。取り立てて特徴のなかったサブキャラの選手たちも、自分の役割を覚えていくごとにどんどん光り輝いていく。
鳩ヶ谷の繰り出す兵法にうなりながらも、彩学野球部の成長を頼もしく見守る、熱い熱い連載10年間(作中では、たったの1年間!)だった。
「人生、勝ち続けなければダメ」と信条を掲げていた鳩ヶ谷が、最後にどんな表情を見せたのか――。
近代高校野球マンガの最高峰が放った渾身の“ラストイニング”を、じっくりと堪能してほしい。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」