日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『竜の七国とみなしごのファナ』
『竜の七国とみなしごのファナ』 第1巻
田中清久 マッグガーデン ¥571+税
(2017年3月10日発売)
“新しいヒト(ガードン)”と呼ばれる竜人が地上を覆う世界。
気が弱いニドは、遺跡で見つけた卵から、不思議な生物が生まれたのを見つけた。
師匠のツェダンに聞くと、それは“古きヒト(モルナード)”。
髪の毛が生え、皮膚は薄い。絶滅したといわれるヒトだった。
言葉は通じない。
彼女が発した言葉「ファナ」を名前として呼び、ニドは面倒を見るようになる。
彼はファナといっしょに、“古きヒト(モルナード)”の研究をしている場所を探す旅に出る。
マンガやアニメで、一般的に使われている“人外”という言葉は、大抵は“ホモ・サピエンス以外”という意味合いだ。
しかしこのマンガでは逆。竜人がヒトであり、ホモ・サピエンスのほうが“人外”。
『ガリバー旅行記』的な逆転の発想。ファナは珍獣扱い。見世物や実験動物として見られることもありうる。
作中には“古きヒト”がつくって残したと思われるものが数多く出てくるため、マジョリティだったことがわかる。
しかし“新しいヒト”あふれる世界には“古きヒト”はファナしかいない。
ヒトは自分と違うものに対して、恐れを抱く。
作中の“ヒトを狂わせる”という発言。マイノリティに対しての偏見、恐怖、好奇心は、防ぐことができない。
この作品はもうひとつ、異文化差別を描いている。肉食竜人と草食竜人の差だ。
草食が多い世界だと、肉食は罪悪のように扱われる。
肉食のニドはとても肩身が狭い。野蛮人だと後ろ指をさされる。いくらニドが肉を食べていなくても、差別は横行する。
旅に出て早速2つ目の国で、ひどい目にあう2人。
世間のヒトとはわかりあえないことのほうが圧倒的に多い。まだ見知らぬほかの国のことを考えると、不安が募る。
ただ、作品からはそれほどさみしさや孤独は感じない。
ニドとファナは、肉食竜人と古きヒトの枠を超えて、通じ合えているからだ。
肉食動物と草食動物のいがみあいを描いているマンガ『BEASTERS』と比較してみるのもおもしろい。
生命が関わるとはいえ、肉食が“罪”とは一概にいえない。埋められない文化の溝。いざこざは避けられない。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」