『フイチン再見!』第3巻
村上もとか 小学館
(2014年8月29日発売)
ドラマ化もされて話題となった前作『JIN-仁-』から一転、本作は実在の女性漫画家・上田としこの物語。
彼女の代表作『フイチンさん』の絵柄と作風も、上田としこ自身の人柄と人生も、そして本作自体も、軽やかにして鮮やかだ。
伝記マンガではあるが、本作は決して堅苦しいものではない。くじけても前を向き、照笑いや苦笑いはしながらも颯爽と歩いていく女性の姿が、なにより心情豊に生き生き描かれていて、そこが最大の魅力となっている。
それこそ、文献だけからは見えてこない、等身大の女性の言葉や気持ちや行動が本作にはある。
最新第3巻では、画学生たちとの青春と淡いロマンス、そして満州での満鉄・ハルピン鉄道局での勤務が描かれる。
華やかな日本での日々と対照的に、満州の鉄道局では「軍馬、軍犬、鳩、雇員の序列」で女子社員は伝書鳩以下という環境にとしこは置かれる。世間知らずだったとしこがそこで知る現実。
戦争という時代背景もあってか、前2巻に比べてかなりシリアスな空気が物語に漂っている。ただ、それでも顔を上げるのがとしこだ。軽やかにして鮮やかな本作のイメージは変わらない。
しかし村上の描く女性は、なんでこんなに魅力的なんだろうか。
『龍-RON-』で女中から女流映画監督になった田鶴ていしかり、『JIN-仁-』で武家の娘から看護士となった橘咲しかり。男性主人公のイメージが強い作者だが、『NAGISA』や『ミコ・ヒミコ』など、女の子の魅力的なドラマも手掛けている。
どの女性キャラクターも、意志が強くてチャーミングというところが共通点。
ちなみに本作で村上は、第43回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。著者の新たな代表作となることは確実だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。