『かくかくしかじか』第4巻
東村アキコ 集英社 ¥743+税
(2014年7月25日発売)
ハチャメチャな南国マンガ道を描きつつ、人生最大の恩師である日高健三先生へ贈る長い手紙に、“その時”が訪れた。
金沢の美大を卒業後、地元・宮崎で(父親のコネで就職した)番号案内の仕事に従事しつつ、プロの漫画家として一本立ちをするためにネームと格闘する日々を送っていた若き日の著者・東村アキコは、車で片道45分もかかる日高絵画教室を週5で手伝うことが負担になってくる。
やがて集英社の少女マンガ誌「Cookie」の創刊にあわせて、初の連載作『きせかえユカちゃん』が始まり、キャパシティーオーバー寸前に。アキコは日高先生から逃げるように宮崎を後にし、大阪での新生活をスタートする。
美大生編から駆けだし漫画家編に移行し、ぐっと身近な話になってきた。自伝的ギャグ作品『ひまわりっ ~健一レジェンド~』とリンクするエピソードも出てきて、東村ファンならニヤリとする描写も多いだろう。
東村作品周辺に登場頻度の高い漫画家・石田拓実(東村より1つ年齢は下だが、漫画家としては大先輩)との出会いも描かれ、2000年前後の「ぶ~け」から「Cookie」周辺の交友関係が垣間見られるのも興味深い。
余談だが、この当時、本作にも痩身のイケメンとして登場する担当のU岡氏に、筆者が『NANA』絡みで取材をした際、「東村先生の『きせユカ』もおもしろいですね」と話をふると、「うれしいです! 僕がイチ押しの若手なんです!」と満面の笑みで答えてくれたことを思い出す。
話を戻そう。
最新刊となる第4巻では、これまで以上にアキコが後悔を口にする。
連載作家といっても、月に16ページ、気楽な実家暮らしで、ごはんもお風呂も親がかり。会社も夕方には終わり、絵画教室だって深夜に及ぶことはない。
若くて元気な時期なのに、疲れたフリをして、たいへんなフリをして、できるのにできないフリをして、日高先生から遠ざかろうとしていた20代半ばの自分を叱責する。
第28話の終盤にかかってきた日高先生からの電話は、それまで本作を読んできた者として、心の準備ができていたとはいえ、やはり衝撃的だった。
どんなときでも絵画教室の生徒のことを一番に考えている日高先生の望みを、アキコはどのように受け止めるのか。しっかりと見届けたい。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」