日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ゲレクシス』
『ゲレクシス』 第2巻
古谷実 講談社 ¥590+税
(2017年3月23日発売)
家業のバウムクーヘン屋を16歳のときから亡父と切り盛りしてきた“店長”こと、大西たつみは、23年もの間、恋人も友人もいないまま判で押したような日々を過ごしてきたが、ある出来事をきっかけに“別の世界”に迷いこみ、異形の姿となった仲間たちと森のなかを彷徨うことになる――。
『ヒメアノ~ル』の安藤さんを彷彿させる、ダメダメ中年男の恋愛迷走劇か――と思いきや、カフカも真っ青のシュールかつ哲学的すぎる展開にいまだかつてない問題作!? との注目を集めていた本作。
それだけに、たった2巻で完結!? と肩すかしをくらった人も多いだろう。
「ねぇ総括してみてよ 手前の半生はどうだった? 漢字一文字で書くと何?」という質問に答えられないほど、平穏だが何もない人生を送ってきた男が、やっともとの“日常”に戻れたのに、不安だらけだが仲間とともにたしかに生きたという実感のあった“あの世界”に戻りたいと願ってしまう――。そのことの意味するものははたして何なのか?
なんら明確な答えも着地点も提示しないまま、読者を宙に放り出すようなあっけないエンディング。
やがて自身の日常をじわじわと侵蝕してくる“この感じ”は、まさに古谷実にしか出せない“味”。
それにしても、著者は『行け!稲中卓球部』でギャグマンガの新時代を切り開きながら、一転して、閉塞した時代に呼応したようなシリアスで内省的作風へと転身。
その日常と非日常、ユーモアと狂気が交錯する唯一無比の作家性は、今や純文学の域に近づきつつあり、このまま行けば、山上たつひこのように小説家に転向しちゃわないかなあ……と不安!? になるほど。
なにはともあれ、古谷実の作品をリアルタイムで読める喜びを噛みしめつつ、じっくりと何度でも反芻したい重要作だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69