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『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』 富士屋カツヒト 【日刊マンガガイド】

2017/04/29


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』

  
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『打ち切り漫画家(28歳)、パパになる。』
富士屋カツヒト 白泉社 ¥600+税
(2017年3月29日発売)


別名義で青年マンガを連載してきた(過去形)男性漫画家が“パパになる”エッセイだ。

子育てにおいて、父親の役割ってなんだろう?
家事能力が女性以上に高いなどの特殊な例を除けば、やはり“お金を稼ぐこと”ではないだろうか。それができなければ、子どもをつくっても不幸になる?
“自己責任”“貧困家庭”などの話題とあいまって、ネットでは特にこの風潮が強い。

著者は30近くなった奥様“そんたん”のたっての願いで、パパになる決意をするが、妊娠判明とほぼ同時に、ようやく取れた連載マンガの打ち切りが決まってしまう。
しばらく大工仕事で生計を立てつつ次の連載作を模索するが、それも簡単なことではなかった。
連載を持った経験があっても、それで食べていくのが難しい今時のマンガ業界の厳しさもかいま見える。
しかし、うまくいかないなりに仕事との向きあい方を考える姿は、父親として人間として、子どもに“育てられている”かのようである。

胎児の力強さ、赤ちゃんの無垢さや成長ぶりに癒されながら、凝り固まった自意識がほどけていく。おそらく漫画家になる人間は、人一倍“青い”。その青さが、少しずつ自分の子の幸せを願う、温かな気持ちに変わっていく過程が、詳細に綴られている。
収入が不安定でも子どもを持つ、その思い切った決断に拍手を送りたい。若く、成長の余地がある、それだけでも大きな財産なのだから。
また、この経験をマンガにしてほしい、とのオファーがあったあたり、妊娠中にそんたんが話した「子どもはお金を稼がせる」との伝説は本当かも?とニヤリとさせられる。

子どもについて“なるようになる”は正解かもしれない。子どものことのみならず、何かに“迷っている”人に、一読していただきたい。



<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。

単行本情報

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