『パパと親父のウチご飯』第1巻
豊田悠 新潮社 600+税
(2014年12月9日発売)
2組のシングルファーザー家庭を主役にした料理マンガ。
元カノから自分の子だという娘をあずけられた、整体師の千石。息子を引き取り、妻と離婚した漫画編集者の晴海。
自分の店を持ったばかりで生活の苦しい千石は「家賃とトレードで家事をやって欲しい」という旧知の晴海の提案に応じ、郊外でのルームシェア生活を選択する――。
いまや飽和状態で食傷気味の感すらある「食マンガ」だが、本作はうんちくはひかえめ。
口は悪いが誰にでもストレートにぶつかってゆく千石家と、優しいが自分の感情を口にできない晴海家という、対照的な2組の親子が、「料理」を通して少しずつ心を通わせ、自分の殻を破ってゆくゆくさまが、さりげに描かれているのが好ましい。
その料理も、カレー、出し巻、餃子……など、いたってフツーすぎる一品料理なのだが、それが物語とちゃんとリンクしていて、ほかにはない「ウチだけの味」に昇華されているあたり、安倍夜郎『深夜食堂』にも通じる感じ。
巻末にはレシピも掲載されているが、「カレーのレシピ? んなもん箱のウラに書いてある通りつくるのが一番うめーに決まってんだろが」てな、こだわりのなさ。なのに、読んだあとには無性にそのインスタントルーまんまのカレーが食べたくなる!
不思議な魅力をもつ料理マンガだ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69