日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『アイアムアヒーロー』
『アイアムアヒーロー』 第22巻
花沢健吾 小学館 ¥690+税
(2017年3月30日発売)
ある日突然、謎の感染症によって発生したゾンビ“ZQN”の登場により、日本が崩壊していくさまを描いた本作。
2016年には実写映画化もされた人気作だが、このたび、ついに最終巻である第22巻が発売された。
本作の主人公は、さえない中年男・鈴木英雄。
売れっ子漫画家を夢見るものの、一向に芽が出ず、日々クサっている。
そんな男が、急に巻きこまれてしまったパンデミック。
はじめこそ、ただ“生”にしがみつき逃げてばかりの様子が描かれるが、やがて英雄のなかで意識が変わり、生きるために抗うようになっていく。
その成長ぶりは目覚ましく、才能もなく、モテないただの中年男だった英雄も、巻数を重ねるごとにカッコよく見えてくるから不思議だ。
とはいえ、英雄はけっしてヒーローではない。
ZQNによって崩壊していく日本を救うことなんてできないのだ。
最終巻では、そんな英雄が最後までひとりきりで闘う姿が描かれる。
池袋の高層ビルに逃げこみ、追いかけてくるZQNたちをひたすら撃ち落とす英雄。
しかし、やがて弾は尽き、もはや絶体絶命の危機に……。
しかし、ラストエピソードではたくましく生き抜く英雄が描かれている。
ZQNはどうなったのか、ほかの生存者はいるのか、英雄はひとりでどうするのか。
それらの答えは作中で確認してもらうことにして、ここでいえるのはただひとつ。
英雄は、もしかするとヒーローだったのかもしれない、ということ。
本作は、ゾンビものによくある絶望的な終わり方をしていない。
もちろん、日本が崩壊していることに変わりはなく、ZQN発生の原因もわからず、その解決法が示されているわけでもない。
けれど、英雄の背中にはかすかな希望が宿っているのだ。
それは「どんな状況でも生きてやる」という決意にも似た光。
そんな希望を見せてくれた英雄は、ある種のヒーローといえるのではないだろうか。
様々な人の思いが交錯し、決して大団円ではない本作。
しかし、だからこそリアルであり、ご都合主義に陥ることもなかったのだろう。
ゾンビものとしては、とても読後感がよかった一作だ。
<文・五十嵐 大>
'83年生まれの、引きこもり系フリーライター。デスゲーム系やバトルもの、胸キュン必至の恋愛マンガやBLまで嗜む、マンガ好きです。マイブームは、マンガ飯の再現。