日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ビアンカ・オーバーステップ』
『ビアンカ・オーバーステップ』 上巻
筒城灯士郎(著) いとうのいぢ(イラスト) 講談社 ¥1,350+税
(2017年3月15日発売)
大ヒットタイトルが生まれれば、その外伝や番外編といったスピンオフが次々と刊行されることは珍しくもなくなってきた。だが、人の書いた作品の続編を勝手に新人賞に送りつけて、しかもそれが受賞して刊行まで至ってしまう、というのは、さすがになかなか例を見ない事態だろう。
日本文学の巨匠・筒井康隆が2012年、齢77才にして刊行した『ビアンカ・オーバースタディ』。
美少女女子高生ビアンカが男子生徒の精液を搾りとりながら生物実験に励む、「はたしてこれ本当にライトノベルなの?」という本作のあとがきには、筒井からの次のようなメッセージが書かれていた。
「太田が悪い。」
……じゃなかった、
「ところで、ラノベはよく売れるので、たいていは続篇が出る。この作品も続篇を書きたいところだが、あいにくわしはもう77歳でこれを喜寿というのだが、喜ばしくないことにはもう根気がなくなってきている。『ビアンカ・オーバーステップ』というタイトルのアイディアがあるから、だれか続篇を書いてはくれまいか。」
『ビアンカ・オーバーステップ』(上下巻同時発売)は、この冗談のような文章を真に受けた筒城灯士郎が星海社FICTIONS新人賞に送りつてた、新人賞を受賞した作品である。
そんなものを送りつける奴も送りつける奴だが、実際にそれに賞を与え、筒井康隆の許可どころか、推薦コメント、さらには前作のイラストレーターであるいとうのいぢのカバーイラストまでくっつけて出版する星海社も星海社である。
今度の主人公は、ビアンカの妹・ロッサ。
天体観測の最中に消失した姉を追って、時空をこえたSF冒険劇を展開する。エロありグロあり、筒井康隆の作風を踏襲し、じつにハチャメチャな展開を続けながらも、ラストには広げまくった風呂敷を見事にたたんでみせる。
普通に考えればどう考えても“一発屋”な新人だが、意外にもしかして、筒井康隆の後継者となるべき日本文学の新星になるかもしれない。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas