日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『北斎のむすめ。』
『北斎のむすめ。』 第1巻
松阪 芳文社 ¥619+税
(2017年4月7日発売)
天才絵師、葛飾北斎はどうしようもなくチャラチャラした人間。
だからその娘であるお栄(おえい)はえらく苦労をしていた。
父に少々似てだらしない彼女。
同じく絵師になった彼女は、絵を愛し、描き続けるうちに、独自のタッチを見つけていく。
歌川広重、歌川国芳、渓斎英泉など、著名な浮世絵師が、現代風にアレンジされた濃いキャラクターづけで登場。
下町の長屋でドタバタする様子がおもしろい。
お栄は実際の世界では、西洋画の技法を取り入れた作風の天才絵師・葛飾応為として知られている。
物語は第1巻中盤、吉原のトップ花魁・高尾が出てきてから、テーマ性を持って一気に動き始める。
高尾は吉原に遊びに来た男たちにいっさい引けをとらず、高貴さを保ち続けている女性。
彼女は、男たちばかりの絵の世界でイキイキと活躍する女流絵師・お栄の絵に、惚れこんでいる。
まったく違う世界に生きる2人が、どんどん仲よくなっていく。
大好きな絵を仕事にするために歩んでいく、独身女性の生き方の物語だ。
江戸の町は完全な男性社会。作中のキャラクターは基本的にみな優しいし寛容だが、それでも女性が生きていこうとする時に偏見が見えてきてしまう。
別に男性に勝つとか負けるとかは、お栄は気にしていない。
それでも「女に絵が描けるのか!?」「父親が有名だからじゃねーの!?」といわれるとカチンと来る。
ただ、好きだから絵を描く。
そこに小気味よさを感じて、高尾はお栄を気に入って手紙を送る。
吉原の箱のなかから出ることができない彼女に、お栄は風景画を送る。2人の生き方は、とても粋だ。
作中では実在する「夜桜美人図」が登場。
光の強弱がとてもはっきりしており、とても江戸時代とは思えない斬新な描き方の作品だ。
ぜひ検索するなどして葛飾応為の絵を見ながら読んでみてほしい。自由奔放かつたくましい彼女の姿がより楽しめるはず。
江戸の文化風俗ネタや葛飾応為の逸話もてんこもりの作品だ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」