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【エイプリールフール企画】「このハンガがすごい!2016」――今年クるのはこのハンガだっ!! 歌川国貞、歌川国芳ロングレビュー

2016/04/01


「このマンガがすごい!文化十一(1814)年」オトコ編の第1位に輝いた葛飾北斎『北斎漫画』をはじめ、文化・文政カルチャーの牽引役として爛熟を極めていたマンガが、「天保の改革」を掲げる老中・水野忠邦の倹約令によって大きな規制を受けるようになって十数年。
当局の厳しい制限を受ける歌舞伎・落語といった市民の娯楽は衰退していったかに思われた……。

しかしながら!

金利の大幅引き下げや急速なインフレが招いた経済政策、いわゆる「ミズノミクス」の破たんによって水野が失脚したこのご時世に、マンガはちゃんと生き延びて、息を吹きかえした!!
徳川政権ももはや死に体、あと数年もすれば欧米から開国をうながす使者が来るのでは、と噂される時代。風雲急を告げる政情不安を吹き飛ばすかのようにマンガ界には新しい波が押し寄せている。

その波の名は浮世絵……いや、“ハンガ”である。

今回は「このマンガがすごい!WEB」特別企画「このハンガがすごい!2016」として、現在もっとも評判が高い当代きってのクリエイター2人をオトコ編とオンナ編の各カテゴリーでピックアップ。彼らの作品をご紹介したい。

このハンガがすごい!!

やっぱりネコが好き! 歌川国芳

01s

『国芳もやう正札附現金男 野晒悟助』
歌川国芳 弘化2(1845)年頃

William Sturgis Bigelow Collection, 11.28900 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

みごと「このハンガがすごい!2016」オトコ編に選ばれた、歌川国芳は、最新の流行を取り入れることで知られる浮世絵師だ。

今回モチーフにしたのは「スカル(髑髏)」。
一面にスカルプリントをあしらったパンクな衣装が目を引くが、そこにも、そしてそこ以外にもまだまだデザイン上の秘密が隠されている。まずは人物の左上の空間にご注目いただきたい。

……おわかりいただけただろうか?(あの怖い呪われたビデオのナレーション風に)

太刀の束にさげた下駄の鼻緒を通す3つの穴とつま先の切り欠きが、髑髏に見えてこないだろうか?
そして、もう一度衣裳に目を移し、スカルプリントをよくご覧いただこう。

……おわかりいただけただろうか?(以下略)

髑髏を構成しているのはなんと、おびただしい数のネコ!?
そう、先日行われた『猫ノ草子』(御伽草子)のインタビューによれば国芳センセイは無類のネコ好きとのこと。常に数匹~十数匹の猫を飼い、猫を抱いて執筆活動にいそしんでいるというほどの愛猫家なのだ。
しかしこの絵がきっかけとなって、江戸に空前のネコマンガブームが起こっているというのだから、その影響力の計りしれなさは推して知るべしである。

02s

『相馬の古内裏に将門の姫君瀧夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす』
歌川国芳 弘化元(1844)年頃

William Sturgis Bigelow Collection, 11.30468-70 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

国芳の骨好きは頭部だけにとどまらない。
山東京伝原作の読み物(小説)のコミカライズ作では、敵の女性キャラ「滝夜叉姫」がくり出す巨大な骸骨とヒーロー・大宅太郎光国のバトルアクションが展開。『進撃の巨人』を思わせる迫力が強烈な印象を残す。スタジオジブリの名作『平成狸合戦ぽんぽこ』にも登場しているのも、むべなるかな。

余談ながらながらこの作品はのちに、『解体新書』の著者たちから「鎖骨がないのでは?」という解剖学上のツッコミが出てきたという。

10s

『荷宝蔵壁のむだ書』(黄腰壁)
歌川国芳 弘化5 (1848) 年頃

William Sturgis Bigelow Collection, 11.27004 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

極端なデフォルメが目を引くハンガ。
俳優の似顔絵なのだが、直前まで続いた天保改革による役者絵への規制のためか、誰を描いたものか明確にしていないところがいかにもマンガらしい。

03s

『讃岐院眷属をして為朝をすくふ図』
歌川国芳 嘉永4・5 (1851・52) 年頃

William Sturgis Bigelow Collection, 11.26999-7001 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

『南総里見八犬伝』で大ブレイクした曲亭馬琴の伝奇小説『椿説弓張月』は,作画担当が葛飾北斎だったが、その北斎の影響を多く受けた国芳がハンガ化した同作の一場面。

父の仇・平清盛を討つため出帆した鎮西八郎為朝の船が暴風雨で難破して、海神を鎮めようと入水した妻を追って切腹しようとする為朝を止めているのは烏天狗。為朝の子を救うために海中から出現したのが中央の巨大な鰐鮫だ。
荒れ狂う嵐と異界の存在らしさ満点の烏天狗、そして鰐鮫というモンスターの威容。国芳はアクションジャンルのすべての要素を盛りこんで、江戸の熱狂的ハンガファンの注目を一身に集めている。

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