女性ファンが続々増殖中!! 歌川国貞
『見立三十六歌撰之内 在原業平朝臣 清玄』八代目市川團十郎
歌川国貞 嘉永5(1852)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.42663 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston
歌川国貞は一門のなかでは国芳の兄弟子にあたる浮世絵師。
アクションやパロディといったオトコ編ベクトルの国芳に対して、材木問屋の家に生まれたいわばいいとこのボンボン出身の国貞は、役者絵や美人画といった繊細な絵柄が女子、とくに“腐女子”と呼ばれる人々の間に大きな支持を得て、ついに「このハンガがすごい!2016」オンナ編1位に輝いた。
本作の清玄は稚児の白菊丸と心中しようとするもひとりだけ生き延び、白菊丸の生まれ変わりである桜姫に亡霊となって取り憑く男。つまりBLがこじれるあまりストーカーになってしまった幽霊なのだっ!
この清玄を演じた八代目市川團十郎を描いたわけで、いわば限りなくナマモノに近いものなのだが、その美貌は腐女子のみならず多くのお江戸ガールズを虜にしてしまったようだ。
『当世三十弐相 よくうれ相』
歌川国貞 文政4・5(1821・22)年頃
Nellie Parney Carter Collection―Bequest of Nellie Parney Carter, 34.489 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston
好きなあの人からのメールを読む若い女性で、どうやらメールの内容に激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム(←古語)のご様子。
怒りのあまり1枚を強くかみしめ、「キーッ!」と言わんばかりの表情には、激おこ6段活用(←古語)の最高級がふさわしいだろう。
また、着衣やアクセサリーにも注目いただきたい。
鼈甲の櫛やかんざし、着物にも最近の流行カラーである紫色を取り入れ、帯にはスペイン、ポルトガル、オランダ、イギリスなどからのインポート品「更紗」が使われている。
ファッションだけならば問題ないが、この絵によって過激な攘夷派方面から「外国製品を取り入れるとはケシカラン!!」と炎上しなければよいのだが……
『見立邯鄲』
歌川国貞 文政13/天保元(1830)年
Gift of L. Aaron Lebowich, 53.505 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston
「邯鄲の夢」をテーマにした美人絵。
人生に迷う青年・盧生が邯鄲という地の宿で、女主人が勧める仙人の枕で寝てみたところ、帝に即位して50年を栄耀栄華を過ごす夢を見た、というファンタジーを独自の解釈でハンガ化したもの。
手前に描かれた女性の見つめる蝶が、儚い夢=邯鄲の夢を象徴して、いまこうして見つめている自分たちの存在すらも夢なのではと思わせる幻惑に満ちているファンタジックな一作だ。
というわけで、今回は「エイプリルフール特別企画」として、幕末の偉大な浮世絵師・国芳と国貞をとりあげてたのだが、いかがだっただろうか!?
虚実入り混じえてご紹介したが、彼らが現代のアートシーンでも充分わたりあえるセンスの持ち主であることは間違いない!
現在、渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」展では、彼らの作品がたっぷり見られる。2人の天才が描いた、当時の最先端カルチャーのときめきを展覧会でぜひ感じてほしい!
<文・富士屋大左衛門(ふじや・だいざえもん)>
黄表紙コレクターを経て近年は浮世絵・錦絵についても様々な評論を行うほか、みずからも「版★画太郎」のペンネームで同人活動にいそしむ。おもな著書に「国芳は未来から来ていた? ~信じるか信じないかはあなた次第~』ほか。
ブログ:「見かけは怖いがまあまあ良い人だ」