日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『幻想ギネコクラシー』
『幻想ギネコクラシー』 第2巻
沙村広明 白泉社 ¥600+税
(2017年4月28日発売)
「ギネコクラシー」とは、女性上位・女権政治の意味だというのは第1巻のあとがきに書かれていたことなので、ことさらここで繰り返す必要はないだろう。
第2巻となる今回も、基本的には男は勇ましくも情けなく、愛らしくも愚かしく描かれている。
ほんとダメ男を描かせたら沙村広明の右に出る者はいないのではないだろうか。
そしてもちろん、そんな男たちを見守り、ときに口汚く罵り、愛しながらも見下す女たちの美しさ、その艶やかさも比類ない。
あ、いや、なんかダメそうな女の人も描かれてますが、見た目は基本的にみなさん、お美しいです。ともあれ、男も女も、沙村広明らしく描かれつつも、それぞれ絶妙の匿名性を保っていて、それでいて、そのつどきちんと個性的でスラップスティックである、というのはじつはかなりすごいことだと思う。
今回の白眉はなんといっても、別れた女たちの名前を口にするたびに鉄拳制裁を受けながら、そのクセを直す兆しもないド天然ヒモ男が、「会社」の仕事で妊婦体験のためのジャケットを着て旅に出る「ぷれぐなぷれぐな」だろう。ちょっとした名作映画を2本立てで観たような感慨が読後に残る。
第1巻所収の、あの「鳳梨娘」を彷彿とさせる、バイオ奇譚とでも呼ぶべき連作「ホモ・ロフィエス」もヤバい。
コロボックルを題材にした名作小説『だれも知らない小さな国』(という小説を読んだことがないなら早く読んだほうがいいぜ)のような、イイ話を期待してはいけない。
アンコウから進化したために、オスが女性に比して異様に小さいという逆「巨女フェチ」みたいな設定からして狂っているのだが、うん、なんというか、こんな死に方も悪くないのかな……と思っちゃったりする男もいるだろう。
なんにせよ、こんなに心の機微の繊細な動きを忠実に描くことができて、しかもストーリーテリングが軽妙洒脱、ひねっているといえばかなりひねっているのにもかかわらず、カラカラと笑える内容になっていることに驚かされる。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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