『すくってごらん』第1巻
大谷紀子 講談社 \429+税
(2014年9月12日発売)
主人公・香芝誠は、大手メガバンクで営業成績トップのエリート銀行マン。ところが、たった1枚の契約書のミスで左遷されてしまう。彼の転属先は奈良県大和郡山市。この町の名産は……なんと金魚!
大和郡山市は 金魚すくい用の金魚「小赤」を大量に生産することで知られ、その生産量は全国トップクラスを誇る。金魚すくいの全国大会が毎年開催されているほどの「金魚先進都市」なのだ。エリートコースを外れた香芝は、金魚すくいを通じ、この町の人々と交わり、自分の居場所を少しずつ築き上げていく。
「金魚すくいなんか、マンガになるの?」というストレートな疑問は至極もっとも。しかし、われわれの知らないところで、「本場」の金魚すくいは高度に発展していた。
大会参加者のポイさばきは、夏祭りの夜店のような牧歌的な世界のものにあらず。ある種スポーツのような娯楽へと進化を遂げていたのである。
見知らぬ世界に飛び込んだ主人公が、少しずつ知識や技術を獲得していくステップ・バイ・ステップ感は、まさしく王道スポーツマンガのノリだ。はじめはド素人の主人公が、ふとしたことで見せる才能の片鱗……というスポーツマンガの王道的“お約束”もあって、ぐいぐいと引き込まれる。
また、ヒロイン・生駒吉乃との恋模様も気になるところ。浴衣姿で金魚すくいをしている姿の、まあかわいいこと! 香芝でなくっても、こんなかわいい女性が身近にいたら、イイところを見せたくなるってもんです。
掲載誌「BE・LOVE」(講談社)は女性向けマンガ誌だが、男の主人公が非BLで恋愛……という点でも、万人向けといえるだろう。
金魚すくいという、変化球的な題材でありながら、王道であり、万人向け。油断していると、足下をすくわれるかも?
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama