日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』
『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』 第5巻
要マジュロ(原作) 榊原宗々(漫画) 講談社 ¥429+税
(2017年7月14日発売)
「アメトーーク!」の“本屋でマンガ大好き芸人”に出演した女優・広瀬アリスがオススメ作品としてピックアップしたことでも話題となった、ダークラブ・サスペンスの第5弾。
“かわいさあまって憎さ百倍”とはよくいったものだが、これを額面どおりに料理してみせたのが本作だ。
幼なじみの花園魅香(はなぞの・みか)を想い続けている高校2年生・神城卓(かみしろ・たく)。
もはや長すぎた春で、常に仲よくケンカしている姉弟のような間柄。おまけに花園は学校中、否、町中の男が狙っている超モテモテの美少女なのである。
それでも意を決して告白しようと花園を屋上に呼びだした神城だったが、いざその瞬間に口をついたのは、愛の言葉とは真逆の「俺は 君を殺したい」。
なんと彼は、愛する人に強い殺意を抱いてしまう病に感染していたのだ。
さて、3桁の死傷者を出した血濡れの「輝葉祭」以降、何もいわずに神城の前から姿を消してしまった花園。
第4巻ではそこから1カ月の時間をスキップして新章に突入。神城は秘密裏に感染者を保護する組織「ルーディメント」のメンバーとなり、花園を探していた。
愛が殺意に変わる病は「ID」と呼ばれ、感染者には「ギフト」と呼ばれる副作用が起こる。意中の相手に褒められた身体部分や技能のレベルが飛躍的に向上するのだ(神城の場合は眼力)。
ID感染者で構成されたルーディメントのメンバーは、その副作用を使って対抗集団の「CID(シド)」と戦うことになる。
はたしてルーディメントの精鋭部隊は、輝葉祭事件の首謀者と目される生徒会長の家に乗りこむ。いよいよCIDとの本格的な抗争の幕開けだ。
花園を見つけるために全力で行動する神城。しかし彼女を見つけることは、自ら殺めてしまうリスクも背負いこむのだ。
このように大いなる矛盾と葛藤を抱えつつ、それでもしっかりと前を向いて花園のために戦う神城が、精悍な男として覚醒していくさまにシビれる。さまざまなギフトを持つルーディメントのメンバーも曲者ぞろいで、今後は群像劇としても広がりを見せていくことだろう。
ひと筋縄では決してハッピーエンドになりえない、深い闇をまとった愛の物語から目が離せない。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。