日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ねぇ、ママ』
『ねぇ、ママ』
池辺葵 秋田書店 ¥630+税
(2017年6月16日発売)
昨今話題の「母娘の確執もの?」と思ったら、いい意味で裏切られる。
息子のためにぜいたくではないが心のこもった料理を毎日つくり続けてきたシングルマザー。
母親を亡くしたり、母親に捨てられた子どもたちを日々見守る、孤児院のシスターたち。
かつて住んでいた街に両親の墓参りに訪れた老姉妹。
中学からひきこもり生活を続ける男の子の両親。
近所の古道具屋のおばあちゃん、旅先で出会ったおせっかいおばちゃんたち……。
本作に登場するのは、血縁の有無にかかわらず、生きてゆくうえでたまたまだれかの「母なる存在」となった、年齢も立場も様々な女性たち。
かつて子どもだった母親と、やがて母親になる子どもたちの日々の孤独としあわせ。
ささやかだがかけがえのない人と人との関わりを丹念な手つきで綴ってゆくスタイルは、著者の人気作『プリンセスメゾン』にも通じるもの。
「だって姉さん、私、20年以上母オヤとしてしか生きてこなかったんだよ」
「愛情がなかったわけじゃないさ」
「あの子の人生を私たちがかわりに生きてやることはできないんだから」
母親だってただの人間。
母であることに苦しみ、愚かな過ちも犯せば、母ではない自分を見失い、途方に暮れることもある。
そんな事実を知りながらもなお、遠くの母を思い続ける孤児院の子どもたちの姿には、子どもにとっての「ママ」って「神さま」みたいなものなんだなーと目からウロコが落ちる思い。
今は離ればなれでも、二度とはもう会えなくても、だれかに無償の愛を注ぎ、注がれて生きたという記憶は、その後の彼/彼女の人生をずっと支えてゆくお守りになるから。
願わくば、すべての人に、そんな「母なる存在」がありますように……とことさらに祈りたくなる。
安っぽい母性神話に揺さぶりをかけつつも大切な気持ちを思い出させてくれる1冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69