日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『いに怪することなく、獣じつしたひび』
『いに怪することなく、獣じつしたひび』 第2巻
野良しごと 講談社 ¥700+税
(2017年6月20日発売)
校舎の窓から見える景色にガメラを幻視し、排水溝に溜まったヘドロを見ればヘドラを、薔薇の花束を見ればビオランテを、大風が吹けばラドンのソニックブームを連想する。
そんな特撮ファンの女子、倉田さんを描いたのが野良しごとの『いに怪することなく、獣じつしたひび』。
なんていうか、倉田さんの思考パターンが本当に、心覚えがありすぎてヤバイ。
観光地に行くたび、あーここにゴジラが出てきたらこんな感じかなぁとか想像したり、空を見るたび、飛行機雲の軌跡を描きながらヒレガメラが飛んでいくさまを妄想するタイプには、まったく他人事ではないだろう。
同じく特撮ファンの女子をテーマにした作品にはすでに丹羽庭『トクサツガガガ』があるけれど、あちらと比べてこちらは(ガメラやゴジラらの怪獣が実名で登場するということに加えて)ひたすら孤独。
倉田さんの前の席には、彼氏のことにしか興味がないリア充? ギャル系? 女子の北川さんがいるのだけど、この2人、交わるようでほとんど交わらず、まるでゴジラとガメラのようにそれぞれに自分の世界を生き続けている。
そんな静かでひとりぼっちだが、だからこそ充実した日々を描く、日常型怪獣マンガだ。
ビルの外の景色に怪獣を幻視せずにはいられない、すべての特撮ファン……とりわけ平成ガメラ派におすすめ。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas