日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『新装版 なるたる』
『新装版 なるたる』 第1巻
鬼頭莫宏 講談社 ¥1,000+税
(2017年6月23日発売)
過酷な状況のもとひしひしと、繊細な心情にさいなまれる少年少女の描写を高度なメルヒェンの域に高める漫画家・鬼頭莫宏。
この異才が1990年代終盤から21世紀初頭をまたいで「月刊アフタヌーン」で連載した初期代表作『なるたる』が、大判化で迫力アップした新装版としてかえってきた。
始まりは、ある暑い夏。
離島に暮らす祖父母のもとへ遊びにきた少女・玉依シイナは地元の子どもたちとともに海水浴を楽しんでいる最中、溺れかけて命を危うくする。
その時彼女を救ったのは、星型のボディにかわいらしい顔がついた、生き物のような何か。
サーフボード状に変形して空高く飛行するなど常識外れの力を持つ“それ”をシイナは気に入り、「ホシ丸」という名をつけ自分のおともとしてかわいがっていく。
この時、シイナはまだ知らなかった。
ホシ丸との出会いは、同じような存在を従えて武器とする少年少女たちの戦いや、国家レベルの動き……。最終的にはこの地球という星そのものの謎をめぐる大きな動きに巻きこまれる日々の幕開けでもあったということを。
星の記憶から生まれたホシ丸たち「竜の子」と、その交信相手となる運命を課せられた子どもたち。
さらにそれらと複雑な関係を持つ親や大人たちをまじえた群像劇は、ミリタリ要素もある戦闘シーンだけでなく、他愛ない日常的なシーンでさえも隅々まで静かな緊張感で整えられている。
20年近く前の作品でありながら、いまだ古びない格調高さを備えたSFマンガだ。
今回刊行がはじまった新装版は6月から毎月2巻ずつの同時発売で、全8巻になる予定。
全巻購入特典で特製の収納ボックスが応募者全員にプレゼントされるそうなので、今から追いかければ永久保存の価値あるセットを手元に置くことができるだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論増補改訂版』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7