365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
7月31日は古谷徹の誕生日。本日読むべきマンガは……。
『GTO』第18巻
藤沢とおる 講談社 ¥429+税
本日、7月31日は声優・古谷徹の誕生日。
声優・古谷徹といえば、『巨人の星』の星飛雄馬、『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイ、『聖闘士星矢』の星矢、『美少女戦士セーラームーン』のタキシード仮面や『ドラゴンボール』のヤムチャ……と、とにかく代表的なキャラクターと作品を挙げだしたらきりがない。
近年では『名探偵コナン』で、安室透というミステリアスなイケメン私立探偵役を演じているが、「人当たりのよい好青年」と「積年の恨みを抱え復讐に燃える男」、ふたつの顔を持った安室を、あのやわらかくてしかし鋭さもある声色で演じ、昨年の劇場版で乙女たちのハートをひっさらったのは池袋界隈や有明方面では有名な話。
2016年でデビュー50周年を迎えた大ベテランながらも、いまなお前線で活躍し、幅広い層から支持を集めている、まさにアニメ界を牽引する声優のひとりだ。
さて、前置きが長くなったが、古谷氏の誕生日に、彼が演じた代表的キャラクターが登場するマンガをとりあげよう……かと思ったのだが、今回、古谷氏の怪演技が光る作品を紹介しようと思う。
それが『GTO』だ。
『湘南純愛組!』の藤沢とおるが手がけた『GTO』は、湘南の元暴走族・鬼塚英吉がひょんなことから教師となり、東京都武蔵野市・吉祥寺を舞台に様々な葛藤を抱えた生徒、親、教育現場と対峙していく物語だ。『GTO』が「週刊少年マガジン」で連載されていた1997年から2002年は若者たちの感覚や流行も移り変わりやすく、様々な事件や社会問題も起きていた時代なので、その時代背景も色濃く写していたことから、たいへん話題となり、ドラマ化、アニメ化もされて社会現象にもなった。
そんな話題作のアニメで、古谷氏が演じたのは勅使河原 優(てしがわら・すぐる)だ。
名前からして、ひとクセありそうな感じがするのは偏見かもしれないが、数学教師で東京大学卒の彼は、普段は物腰やわらかで、少し生まじめな印象……。しかし、その正体はプライドの高くキレやすい男だった。
さらに彼は同僚の冬月あずさに、ストーキングしてしまうほどの異常な愛情を持っており、部屋の壁じゅうには冬月の写真(盗撮…!)で埋めつくされている。そして自分とは対照的な鬼塚を忌み嫌い、愛する“僕のあずさ”に近づく鬼塚を排除しようと考え始める……。
等身大の少年、熱血漢のヒーロー、少女が憧れるステキな王子様……さまざまなキャラクターを演じてきた古谷氏だが、その優しく響く声色がサイコパスな勅使河原というフィルターをとおすと、その背後にある狂気や悲哀がにじみ出て、とにかくもう……怖いのだ!
勅使河原が、自己満足にまみれた部屋に帰ってきた際の「ただいま」のひと言。
その部屋は、うまくいかない外の現実とは違い、愛すべき人(虚像)が微笑み彼を内包してくれるサンウチュアリ。アニメでは少し興奮と歓喜をおびているように感じられる「ただいま」のひと言、その言葉の重みにただただ震えるしかない。古谷さん最高です……!
勅使河原はだんだんと情緒不安定に陥っていき、はてには大事件も起こしてしまうのだが、そのエピソードは残念ながらアニメでは放送されなかった。
勅使河原の暴走、戦慄の盲目愛、そして鬼塚とのタイマン……。息つく暇もない怒涛の展開のなかで見えてくる、勅使河原の繊細で凡庸な人間性。
これまで生徒やその親、学園と対峙することが多かった鬼塚だが、このエピソードは役職などの立場を越えて、ひとりの男・鬼塚として、ひとりの男・勅使河原と対峙するという、生身の人間同士のぶつかりあいが、どのエピソードよりもキワ立って見えた。
この熱いエピソードの勅使河原をぜひとも、古谷氏に演じてほしかった……というのが、今回古谷氏の誕生日にかこつけていいたかった筆者の独白である。
ひとまずは脳内再生で我慢しようかと思いマス。
さて蛇足だが、アニメ『GTO』ではこんなことも。鬼塚のクラスにはガンダム三兄弟なるガンダムオタクの少年三人組がいる。白井木馬を古谷氏が、時田晴男を関智一氏が(兼役で村井國男役)、三島軍人を緑川光氏が(兼役で菊地善人役)演じている。
おやおや……? 関さんって『Gガンダム』の……? 緑川さんって『ガンダムW』の……?
こんなところでもベテランの怪演技が光るので、ぜひ記念すべき今日は『GTO』を堪能してみてはいかがだろうか。
<文・はろるどキサラギ>
フリー編集者。見習い感あふれる感じながら、ときに執筆やデザインを手がけることも。アニメとマンガが“ズッ友”。スポーツしてる青春DKが大好きだと叫びたい。