日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『武士のフトコロ』
『武士のフトコロ』 第2巻
岡村賢二(著) 永井義男(監修) 日本文芸社 ¥593+税
(2017年7月10日発売)
江戸時代、武士の給料は米で支払われていたというのは有名な話だが、そのうちの9割以上の武士の俸禄は50俵……。計算式は諸説あるので明確な数字は出せないが、現代の金額にすると低い所得だったと考えられる。
しかもこれで家族全員が暮らすのだ。
270年間の徳川の治世にあって、しかもこの給料はいっさい増えず、商売に励む商人たちとの格差はどんどん開いていったというのは、なんだろう、30年もデフレ経済を続けている国の住民としてはまったく他人事とは思えないものがある。
岡村賢二『武士のフトコロ』は、そんな年収114万円一家の次男坊である侍、飛田蔵之丞の物語。
正義感で剣の腕は立つものの太平の世にあってはそんな才能、ちょっとした特技程度のものであって、なかなか収入には結びつかない。
それでもなんとか剣で身を立てようとする彼は、今までいうなら「好きなことで生きていく」で一発逆転を目指す「YouTuber志願者」みたいなものだろうか。
毎日の食事は一汁一菜の質素なもので、魚などは月に一度か二度、蕎麦の値上がりに苦しんだり、内職に励んだり、宝くじで一発逆転を狙ったり。
そんな侍の世知辛い生活事情を描きながら、なんだかんだで要所要所ではいいところを見せる蔵之丞。
等身大の武士の生活を描いた、不思議と親近感が湧く時代劇である。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas