日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『セントールの悩み』
『セントールの悩み』 第15巻
村山慶 徳間書店 ¥620+税
(2017年7月13日発売)
アニメ放映中のこの作品は、進化の分岐によって、人馬型、人魚型、翼人など様々な人種が存在し、ともに暮らすSF世界が舞台。
物語の中心は、人馬型のおっとり少女・姫乃を中心とした、ほんわかとした日常風景。
同時進行で、世界の人種差別問題が描かれ続けてきた。この巻ではよりいっそう深刻になっている。
法律で保護されているのは、存在がはっきりしているマジョリティな人種。
差別的発言や行動は徹底的に禁止され、完全なる平等を保つよう、厳しい規制がなされている。
今まで形態差別によって、隷属や虐殺など、残忍な行為が横行していた時代があったからだ。
ところが形態や国籍、身体的特徴をネタに、テロリストが姫乃の学校を占拠してしまう。
「支配者として人民を苦しめてきた特定形態の罪を清算するのだ」
人魚型を「特権階級」とみなし、居住区域を襲撃しようとする者も出てくる。
もちろん犯罪。しかしいまだに、姫乃らの身近なところに人種差別主義者が残っている。
存在がはっきりしていなかった南米の両棲類人。
知的人類であるにもかかわらず、彼らは法的な平等に入れられていない。
そのためマジョリティ人類のなかには「カエル」と呼んで蔑み、金品の強奪どころか、解体して食べたりする者もいる。
第11巻で「自由 平等 民主 人類の普遍的な原理はなぜ我々に適用されないのか」と蜂起した両棲類人。
第15巻ではマジョリティ人類側の平等デモに飛び入り参加して混乱を起こしたり、捕虜を肉食魚のいけすに投げこんだりしている。
差別問題は、少女たちの日常のなかにも浮かんでくる。
個人が抱える優越感。電車で姫乃が出会った痴漢。小学校のクラスの仲間はずれ。
世界的な規模の差別問題は、学生が日々感じる悩みの延長線上だ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」