日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『クリスティ・ロンドンマッシブ』
『クリスティ・ロンドンマッシブ』 第5巻
新谷かおる KADOKAWA ¥600+税
(2017年7月22日発売)
2017年4月26日、66歳の誕生日を迎えるとともに、公式Twitterで“一時休筆宣言”を行った、新谷かおるの最新作。
ヴィクトリア朝時代の英国を舞台に、美少女・クリスティが活躍する冒険活劇物。クリスティは、名探偵シャーロック・ホームズの姪という設定なので、ホームズ物の贋作(パスティーシュ)としても楽しめる作品だ。
本作は『クリスティ・ハイテンション』(全7巻)の続編。
前作では10歳のおてんば娘だったクリスティは、17歳となり、ホープ公爵家の令嬢という立場にふさわしいレディに成長している(17歳のクリスティの恋愛模様にも注目だ)。
ただし、好奇心の塊のような性格は変わらず、クリスティは怪力、邪眼、魔術(!)といった特殊な能力を持つメイドらを従え、事件の解決に奔走するのである。
そうした物語の合間に、ヴィクトリア女王治世下のイギリスの風俗がさりげなく盛りこまれている点も読みどころだ。
たとえば、本作の第1巻の冒頭で、メイドがクリスティの胴体をコルセットで締めあげる場面があるが、ギャグをまじえながら、当時の服装などをさらりと説明する場面は見事。読者の知らない世界を、説明的でなく、ごく自然に伝えられるのは、じつにうまい。そうした場面は、全5巻の随所にあるので、新谷かおるの匠のワザを味わってほしい。
シャーロック・ホームズ、ワトソン博士といった、前作『クリスティ・ハイテンション』のキャラクターの再登場も、また楽しい。ホームズらは、立場は変わらないが、前作では刑事だったデクスターが警部補に昇進していたり、対人用の鞭を駆使して、クリスティを助けていたメイドのノーラがメイド長になっていたり、という時間の流れを感じさせる演出もある。そうした点も楽しみどころだ。
そして、本作ではホームズの宿敵・モリアーティ教授が登場する。
「聖典」では「犯罪界のナポレオン」として登場したモリアーティだが、本作での描かれかたはかなり違う。これまた新たなモリアーティ像を提示した、三好輝『憂国のモリアーティ』と比較してみるのもよいだろう。
本作は、2年ぶりの第5巻で完結となる。著者は、間隔があいたので、第4巻で終了と勘違いしていたのだが、そういう人も多いのでは?買い逃がされることのないように。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2017本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。