『ダーウィンズゲーム』第1巻
FLIPFLOPs 秋田書店 \419+税
1836年10月2日、この日はチャールズ・ダーウィンが、ガラパゴス諸島などを経由した、5年間にわたる「ビーグル号」での航海を終え、イギリスに帰国した日である。
この航海で得られた数々の発見が、かの有名な著書『種の起源』へとつながり、いわゆる「進化論」を世に広く知らしめることとなる。
ダーウィンは多くの偉業とともに、数々の名言でも知られるが、彼が遺した言葉のひとつに「もっとも強い者が生き残るのではなく、もっとも賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」というものがある。
環境に応じてその生態を変えることが、生き延びていく必須条件なのだ。
そんな彼の名をタイトルに含むコミック『ダーウィンズゲーム』は、だてにダーウィンの名を冠してるわけではない。
内容としては、いわゆる“異能バトル”もの。携帯アプリ「ダーウィンズゲーム」に手を出してしまったばかりに、特殊能力を得た者同士が高額の賞金と命を懸けて現実に争うゲームに巻き込まれる……と、これだけ書くと「最近流行りのジャンルの1本」と見なされてしまいそうだが、さにあらず。
得られる特殊能力が言ってしまえばささやか、かつ不便ですらあることが本作のキモ。そのことが、独特の緊張感とリアリティを生み出しているのだ。
主人公がやがて属するグループの目的が「勝利」ではなく「生き残り」であることが、先述のダーウィンの言葉とシンクロしているのも注目だ。
ダーウィンの言葉をもうひとつ引用しておくと、「自然淘汰とは、有用であれば、いかに小さなことであろうとも保存されていくという原理」というのがある。
この『ダーウィンズゲーム』も、この作品ならではの新要素というのは小さなものかもしれない。しかし、それが淘汰されずに生き残りうる要素でもあるように思えるのだ。そして、その小さな積み重ねは、異能バトルというジャンルそのものを進化させていくだろう、と期待せずにはいられない。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。