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10月6日は漫画原作者・雁屋哲の誕生日 『風の戦士ダン』を読もう! 【きょうのマンガ】

2014/10/06


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『風の戦士ダン』第1巻
雁屋哲(作) 島本和彦(画) 小学館 \360+税


本日で73歳を迎える雁屋哲は、ご存じ国民的グルメマンガ『美味しんぼ』の原作者。花咲アキラとタッグを組んだ『美味しんぼ』は「ビッグコミックスピリッツ」にて83年にスタート、不定期掲載ながら連載は32年目に突入している。
近年の『美味しんぼ』は、「福島の真実編」での鼻血問題などで世間をにぎわす社会派作品というイメージが強いが、初期は富井部長代理(連載開始当時は副部長)を主軸としたギャグテイストが強く、軽い読み口のエンタメ作品だった。いま読んでも当時の『美味しんぼ』は最高に楽しく、ワクワクするエピソードのてんこ盛りだ。

『美味しんぼ』以前の雁屋といえば、『男組』(作画:池上遼一)に代表されるように、暴力の香りが漂う荒々しい作品が中心だった。
だが一方で、小学生向けの特撮・アニメ作品の原案やコミカライズも手掛けている。現在はB級グルメマンガの第一人者となった土山しげると組んだ『銀河戦士アポロン』(土山は海堂りゅう名義で作画、アニメ『UFO戦士ダイアポロン』の原案)、秋本シゲルと組んだ『炎の超人メガロマン』(特撮ヒーロー番組のコミカライズ)といった作品群だ。

こうした流れを汲んで82年に「週刊少年サンデー増刊」でスタートしたのが、現代忍者バトル『風の戦士ダン』である。作画を担当したのは、今年ドラマ化された自伝的作品『アオイホノオ』で注目を浴びている島本和彦。
当時の島本は弱冠21歳、4カ月前に同誌に掲載された読み切り作品「必殺の転校生」でデビューしたばかりのド新人だった(つまり、あの根拠のない自信に満ちた『アオイホノオ』の“焔くん”の延長線上ってことですね)。

学生時代に愛してやまないマンガやアニメのパロディーばかりを描いてきた島本は、原作を忠実にマンガ化することができず、結果的に原作をパロディー化するという手法をとった。雁屋のブログ(2009年3月19日)によると、それまで原作に無い要素が入ることを神経質に拒否していたそうだが、島本のギャグに関しては「おもしろい」と感服し、「それなら、原作からギャグを入れてやろう」との考えに至ったという。

この化学反応が吉と出て『風の戦士ダン』は人気作となり、翌年の『美味しんぼ』へと繋がっていく。雁屋は「島本さんのあの、たぐいまれなギャグの感覚を吸収できたから、『美味しんぼ』を書くことができたのだ」と述懐している。
雁屋がブログでこのエピソードを披露する以前、『風の戦士ダン』は両者にとって黒歴史という認識が一般的だった。「原作に手を加えることを好まない雁屋が、デビュー1年目の素人に独自のギャグを挿入され、激怒しているのでは?」という憶測があったからだ。しかし現実には雁屋にとって転換期となった重要作なのである。

デビューしたばかりで何も知らない島本がフリーダムに暴れ回り、それに触発されて新たなステージへ突入した雁屋。
そんな奇跡のタッグによって産み落とされた超近代忍者アクション巨編(石ノ森章太郎テイスト満載!)は、いまも色あせることなくキラキラと輝いている。



<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」

単行本情報

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