未来を予見できる石田三成、筋肉ダルマの徳川家康、虎になっちゃった加藤清正――!? 歴史マンガは数あれど、こんな予測不能な歴史マンガは見たことがない。特殊能力を持つ戦国武将がタイマン勝負で歴史をつくる新感覚歴史バトル・アクション『セキガハラ』。とんでもない異色作を生み出した長谷川哲也先生を直撃した!
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特別掲載『セキガハラ』 【総力リコメンド】
ダイタンな歴史解釈!? 超歴史(スーパー・ヒストリエ)ってなんなんだ?
――『セキガハラ』は歴史マンガと見せかけて、「思力」という超能力を使って武将同士がタイマン・バトルを繰り広げるバトル・マンガになっています。「さようなら日本史、こんにちは超歴史(スーパー・ヒストリエ)」と銘打ち、トンデモ展開と濃いキャラが特徴的ですが、「なぜこのようなことになってしまったのか!?」を探っていきたいと思います。
長谷川 お手柔らかにお願いします(笑)。
――そもそも、どういった経緯で連載が始まったんですか?
担当 もともと長谷川先生は、うちの雑誌で『陣借り平助』という作品を連載していたんです。それがちょうど終わって、次に何をしようか、というタイミングだったんですね。
長谷川 最初は「『忍法剣士伝』(山田風太郎)[注1]をやらせて」って言ったの。
――山田風太郎原作ですと、先生は『アイゼンファウスト 天保忍者伝』[注2]を描いてましたね。
担当 でも、弊社の別の雑誌(「コミック乱ツインズ」)で、土山しげる先生が『忍法剣士伝』をやってたんですよ。
長谷川 やりたかったなぁ。あの小説、剣豪がいっぱい出てきて戦うから、すごく楽しいんですよ。
担当 それとは別に、編集部で「関ヶ原モノを」という企画案があったので、長谷川先生に打診してみたんです。
――最初はどう思いました?
長谷川 うーん、関ヶ原かぁ……と。森繁久彌(徳川家康役)と加藤剛(石田三成役)がやったドラマ[注3]のイメージが強かったんですよね。それに、みんな関ヶ原をやってるじゃないですか。『風雲児たち』(みなもと太郎)[注4]も関ヶ原の戦いから始まるし。だから、今さらどうやればいいのか、とは思いました。
――編集部からのオファーとはいえ、原作があるとか、そういうわけじゃないんですよね?
担当 そうです、「関ヶ原モノ」というだけの注文です。
長谷川 だから最初の打ち合わせの時に「タイマン・バトルをやりたい」って言ったんです。
――……ちょっと、そこに発想の飛躍があると思うんですが。
担当 最初はここまでバトル・マンガになる予定ではなかったんですけどね……。連載開始前、打ち合わせでこういうストーリーラインを作ったんですよ。
長谷川 『水滸伝』[注5]みたいに、穴から魔物が出てきて……という話で想定してたんですけど、そういった設定は第1話からどっかいってしまった。だから、こんな構想を作ってもムダだよ、って言ったんですよ。
――ムダって(笑)。
長谷川 僕が予定どおりできるわけがないんだから。もはや『セキガハラ』は、番長マンガですからね。
――番長マンガですか。
長谷川 「技名を叫ぼう!」ってことになったの。「そういえばバトル・マンガって、そういう感じだよな!」という思いつきで。「決めポーズをさせよう!」とか。そうしたら、番長マンガになっちゃった(笑)。
――実際、読者の反応はどうですか?
担当 おかげさまでコミックスは好調なので、支持してもらっているとは思います。ただ、うちの雑誌では、史実どおりに進むマンガのほうがウケる傾向はあります。
――醍醐の花見から三成襲撃事件までのストーリーの流れ(コミック1〜2巻)は、史実に沿っていると思いながら読んでいましたが。
長谷川 それはね、すごく良心的な読み方だよ(笑)。
――「日本中わしの庭」とか、秀吉が多指症[注6]とか、史実ネタも盛り込んでいるじゃないですか。
長谷川 細かいところでそういうネタを入れると、感心されますからね(笑)。ストーリーの大きい部分は、今や史実から逸脱しまくってますから。
――歴史を知っていると、むしろ史実から逸脱することのほうが勇気がいるように思えます。
長谷川 まあ、歴史には興味はあるんですけど、そんなに思い入れはないし、詳しくもないんですよ。『ナポレオン-覇道進撃-』(少年画報社「ヤングキングアワーズ」にて連載中)にしても、次回どうなるか、ろくに知らないんです。
――え!
長谷川 前の月に資料をざーっと頭に入れるくらい。
――本当にこだわりないんですね。
長谷川 ない! ただ、結果的にあとかたもないストーリーになるとしても、土台があったほうが作りやすいじゃないですか。たとえばPhotoshopでトンデモない美女に加工するときでも、もとになる写真があったほうが楽なのと一緒ですよ(笑)。
――そうですか(笑)。しかし、資料をいろいろと漁っていると、つい歴史どおりに描いてしまいませんか?
長谷川 うん。とりあえず1回は、資料を全部入れ込んだネームを描く。編集から「マンガになっていない」と突き返されることもあるんだけど、それでもボツ覚悟でそういうネームを描くんだ。で、そのあとにガサッと要素を削っていく。
――そうやって、ご自分のなかで史実を消化していくんですね。
長谷川 そうですね。それにマンガの場合、1話を描くたびに「これはなんの話だろう?」と考えなきゃいけないから。
――というと?
長谷川 たとえば……そうだな、落語家の立川志の輔さん[注7]が、落語の「寿限無」という演目を「愛情がすぎると、おかしなことになっちゃう話」と言っていたんですね。
――玄侑宗久さんとの対談[注8]でおっしゃってますね。
長谷川 「これはどういう話か?」と、ストーリーを1行で要約できるかどうかが大事なんです。「友情の話」とか「奥さんへの愛情の話」とか。資料を見て描くと、要約できないほど話が散漫になっちゃう。その要約した1行が、ちょっと笑える文章だったらいいですよね。
――なるほど。では、各話ごとにそういう要約の一文が裏に設定されているわけですね?
長谷川 ある。けど、それが読者に伝わるかどうかは別です。自分のなかにあればいいだけなので。それに、自分で読み返した時に、「あれ、これなんの話だ?」って忘れてることもありますから(笑)。
- 注1 作家・山田風太郎による歴史小説。いわゆる「忍法帖もの」のひとつで、姫を守る若き忍者と12人の大剣豪の壮絶な戦いを描く。
- 注2 長谷川先生が講談社のwebコミック配信サイト「MiChao!」で連載(のちビットウェイHandyコミックに移籍)していた作品。山田風太郎の小説『忍者黒白草紙』を原作とする。Handyコミック移籍後、『新アイゼンファウスト アカシア通り』に改題。
- 注3 TBS系列にて1981年の新春に放映されたテレビドラマ『関ヶ原』のこと。東京放送(TBS)30周年記念作品として制作され、原作は司馬遼太郎の同名小説。石田三成を悪役としてではなく描き、しかも主人公とした最初の時代劇とされている。
- 注4 みなもと太郎の描く歴史マンガ。本来は幕末の明治維新を描く予定だったが、さかのぼって関ヶ原の戦いからの歴史を描いた歴史大作。基本的にはギャグマンガであり、パロディも多い。リイド社から発売されているワイド版は、今日では理解しづらくなったギャグに関してはギャグ注(脚注のもじり)が入る親切設計。現在、「コミック乱」(リイド社)にて続編の『風雲児たち 幕末編』を連載中。
- 注5 明代の中国で書かれた伝奇歴史小説の傑作。梁山泊に集結した英雄たちが腐敗した世を正し、国を救うため悪党と戦うピカレスクロマン。
- 注6 手足の先天性の形状異常で手足の指の数が6本以上になる。豊臣秀吉は右手の親指が2本あったと宣教師ルイス・フロイスや前田利家の記録にある(真偽のほどは定かではない)。本作『セキガハラ』の秀吉は、右手に2本の親指がある。また、三成には、二本目の親指を切断したあとがある。
- 注7 落語家、タレント。明治大学卒業後、広告代理店勤務を経て、落語家の立川談志門下に入門し落語家となった。当代随一の人気落語家として幅広い世代のファンから支持されている。NHK「ためしてガッテン」の司会者としても親しまれる。
- 注8 玄侑宗久は小説家にして臨済宗の僧侶。デビュー翌年の2001年に『中陰の花』で第125回芥川賞を受賞。本文中にある「寿限無」についての話は、立川志の輔との共著『21世紀のあくび指南』(青雲社)で読むことができる。ガッテンしていただけましたか?