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『第三世界の長井』 第4巻 ながいけん 【日刊マンガガイド】

2017/11/05


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『第三世界の長井』



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『第三世界の長井』 第4巻
ながいけん 小学館 ¥619+税
(2017年10月12日発売)


「極論でいえば我々がいうこの世界とは創作物なんです。」
「我々は一人一人が脳の創作物であるこの世界という作品を観てるんですよ。」

……と、本編の思わせぶりなセリフをなんとはなしに引用してしまったが、これが別に作品のテーマや設定の根幹に関わるようなものってわけではないんだろう。きっと。いやしかし、もしかしたらここが作品の核心なのかもしれない。
よくわからない。
ハイブロウな不条理SFなのか、ナンセンスなギャグマンガなのか、はたまた、そのどちらでもあるのか。もしかしたら、行き当たりばったりで書き綴られているだけの、投げやりな作品なのか。

あいかわらずワケがわかるんだかわからないんだか、理解の筋が通るんだか通らないんだか、よくわからないままローなテンションでひた走る謎めいた作品の、およそ2年ぶりに発売された最新巻である。

みどころとしては、著者の代表作『神聖モテモテ王国』(略称・キムタク)のメインキャラクターであるファー様がゲストキャラクターとして登場した。これまでも同作の印象的な脇役であるキャプテン・トーマス(CV:大塚芳忠)がちらちらと登場したり、世界観のリンクは仄めかされてきたが、ついに本格的なクロスオーバーである。というか、まるまる1話分、ただの『神聖モテモテ王国』な回がある。何か深遠な狙いがあってのことか、ただの往年のファンへのサービスか、はたまた、「今だって描こうと思えば、こういう普通のギャグマンガが描けるんですよ?」という自身の才能の証明か。
やはりこのあたりも、よくわからないのである。

著者は一時期まで、間違いなく天才ギャグ漫画家であった。
『ドラえもん』などと同じ流れに連なる「同居ものコメディ」というジャンルのフレームの内部にあくまで留まりながら意欲的な実験を行うこととセリフ回しのキレ味において、同時代にながいけんほどの才能があった作家を筆者は過分にして知らない。ネットの海を見渡せば、『神聖モテモテ王国』のフォロワー的な言動をしている人物を多々発見できることからもそれがうかがえよう。

しかしそれほどの天才であったがゆえに、通常の創作に飽きてしまったのか。この作品ではとにかくひたすら、既存の枠組みを疑い、撹乱することだけが試みられている。率直なことをいえば、その試みは今のところ、ことエンターテインメントとしても、思考実験としても、どうにも成功しているようには思えない。だがしかし、それでもこの突き進んだ先に何かがあることを信じたくなってしまうのは、未練だろうか。

……いささか辛口なことを書きはしたが、とにかくストレンジな体験が待ち受けている作品であることに間違いはない。そうした不可思議な作品にひたすら翻弄されたい人、そして、『神聖モテモテ王国』のファンであれば、一読には値する。



<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei

単行本情報

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