日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『エロマンガ表現史』
『エロマンガ表現史』
稀見理都 太田出版 ¥2500+税
(2017年11月1日発売)
エロマンガの作品内でいくら性行為が描かれようとも、現実世界で妊娠することはない。
しかし、エロマンガの作品内における「表現」は、たしかにその後の作品へと文化の遺伝子を残し、子孫となる作品へと継承されていく――。
本作はインタビュー集『エロマンガノゲンバ』で知られる稀見理都が、「多くの表現が発明され、模倣され、改良され、やがてマンガ表現史に定着したひとつの手法としてより洗練、凝縮され」(4-5ページより)ていく、その『エロマンガ表現史』に正面から取り組んだ学術書だ。
ここでは「乳首残像」「触手」「断面図」「アヘ顔」「らめぇ」といった、われわれが日頃からよく慣れ親しんでいる身近な表現が、豊富な図版を交えながら具体的にわかりやすく体系化されていく。
また同時に、石恵、奥浩哉、うたたねひろゆき、前田俊夫、ジョン・K・ペー太、新堂エルといった第一線で活躍する作家たちによる貴重な証言も収録される。
永山薫の『エロマンガ・スタディーズ』(2006年)を出発地点とするならば、本書はそのバトンを受け継いだ現代エロマンガ研究の第一歩というべき書物だろう。
しかしだからこそ、稀見氏は、本作が「第一歩であること」それ自体の歪さを強調する。
「筆者にはむしろ「エロ」が意識的に避けられている、触れてはいけないという空気が感じられた」(8ページより)。「エロマンガもまた、マンガ表現という宇宙全体を知るうえで、決して避けては通れないジャンルである」(9ページより)にもかかわらずだ。
この問題意識は切実なものだ。
実際、当レビューの筆者も以前、アニメ表現に関して次のような主張をしたことがある。
「パンツの露呈を避けたまま、ミニスカートの美少女キャラたちを自由奔放に動き回らせるその不自由さは、全ての演出家に高い戦略性を要求する。〔…〕スカートの揺れと、その下に隠れたパンツの処理が――つまりパンツ表現論が、アニメ演出における本質的課題であることだけは再確認しておきたい」(「挑発するパンツ設計――パンツ表現論序説」『アニメルカ vol.1』2010年)。
メディアをまたいで共通する、エロ表現への軽視、ないしは排除。
だからこそ本作は、このような社会に蔓延する偏見に、くぱぁと風穴を空ける1冊としても読まれる必要があるだろう。
<文・高瀬司>
批評ZINE『Merca』主宰。アニメ・マンガ・イラスト関連を中心に各種媒体で編集・執筆。
TwitterID:@ill_critique
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