日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『エロマンガノゲンバ』
『エロマンガノゲンバ』
稀見理都 三才ブックス ¥1,750+税
(2016年12月20日発売)
毎日様々なマンガについてレビューをお届けしている、当「日刊マンガガイド」コーナー。
今回はすこし趣向を変えて、「マンガについての本」について紹介させていただこうと思う。
その本とは、昨年12月に発売された『エロマンガノゲンバ』というインタビュー集である。
もともとは本作の著者でありインタビュアーの稀見理都がここ数年のあいだ同人誌として出してきたシリーズで、その第1号をベースに増補した商業版が三才ブックスから刊行されたという運びである。
表紙イラストを描いた森山塔(山本直樹)を皮切りに、河本ひろし、ちゃたろー、ダーティ・松本、千乃ナイフ、風船クラブ、うたたねひろゆき、ぢたま某、田中ユタカ……と、成人向けマンガをある程度以上の年月追っている読者なら必ずいきあたるビッグネームが総勢29人、みずからの来歴やエロマンガ創作にまつわる考え方や技術面、編集や出版社とのあいだに起きた興味深いエピソードなどをざっくばらんに語っており、まさに「ゲンバ(現場)」の息づかいが肌身に感じられる。
さらには、かの伝説の投稿ハガキ職人・三峯徹さんのインタビューまで!!
マンガ史における特定分野の貴重なナラティブ資料として、どれだけほめてもほめ足りない充実度だ。
メインのインタビュー以外にも、甘詰留太が往年のエロマンガ読者からの視点で描き下ろしたショートマンガ『いちきゅーきゅーぺけ外伝 1974年生まれの場合』や、業界におきた出来事をスマートにとりまとめた年表、エロマンガ研究書の金字塔『エロマンガ・スタディーズ』著者・永山薫が寄せた解説文といった商業版独自のコンテンツがふんだんに用意されているため、同人版の既読者もあらためて入手する価値がある。
さて、エロマンガというものは性質上、つねに表現の是非を問われ、規制論の突端に立たされる存在だ。
その歴史にふれるということはつまり表現問題の歴史にもふれるという側面を避けられない。
本書は、それをまっすぐに見すえた真摯さからも高く評価できる内容となっている。
ここでインタビューに応じている作家たちはみな、20年以上のキャリアをもつベテランである。
つまり、1990年代、エロマンガ規制が大きな山場を迎えて“冬の時代”という形容まで出た環境を前後にはさんで仕事をしてきた人物たちばかりということだ。
だから、これは規制の渦中にエロ漫画家がどう動いたか、そしてエロマンガという分野そのものがどう動いたかという過去のいきさつを経由して、今・ここにあるエロマンガ、ひいてはマンガそのものがどのように現在の表現問題に向きあうか一考をうながす本ともいえる。
ひとつ興味深いのは、たとえば、がぁさん氏のように「表現規制で得をしました」と語る作家もいる点だ。
えっ? と思って言葉を追ってみると、つまりハードコアなポルノ押しの作品を出版社が減らした時期、そのぶん、どちらかといえばソフトな絵柄だったりストーリー構成を重視するタイプの作家が起用されやすかったという話が述べられている。
表現問題というと、ひたすら圧に耐え忍ぶイメージがあるが、逆説的な意味で波にのるケースもあるのだなあ、と感じ入る。
『エロマンガノゲンバ』という本全体からにじみ出るのは、エロマンガというジャンルがただ流されて「生き残った歴史」ではないということ。
作家や作品の多様性を持ち弾として、能動的に、そしてしたたかに「生き抜いた歴史」である。
冬なればこそ根を下ろして咲く花もあるということだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7