日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『人間失格』
『人間失格』 第1巻
伊藤潤二(著) 太宰治(作) 小学館 ¥552+税
(2017年10月30日発売)
現代ホラーマンガの鬼才・伊藤潤二が、あの太宰治の『人間失格』をコミカライズ。もう、それだけで「これはヤバい」と期待せずにはいられないが、その相性のよさ(と、それゆえのイヤ~な読後感)は「最高!」というほかはない。
「幸福」という感覚が理解できないため、他人を拒絶し、見下す一方で、そんな他人の目が気になってしかたがないという主人公・大庭葉蔵(おおば・ようぞう)。この歪みきった人物像には、太宰治の自己投影が多分に含まれているともいわれているが、本作を脱稿したおよそ1カ月後に太宰が入水自殺を遂げたため、その真相は今もって謎の部分が多い。
そうした点を踏まえて、この伊藤潤二版の『人間失格』は、当然ながら原作にはない、玉川上水で主人公が自殺するくだりが冒頭に挿入されているという気の利いた(?)アレンジからして悪趣味全開。その後も葉蔵の恥じるべき「人としてサイテー」な行為によって失われていく命は、これでもかというほどグロく描かれている。
しかし、そういった表現上のアプローチは伊藤潤二らしさにあふれているとはいえ、大筋ではかなり原作に忠実だというのがむしろ恐ろしい。
この人間の醜悪な内面をえぐり出した原作に、ホラー的なテイストが合わさった本作は、タイトルぐらいしか知らないという人はもちろんのこと、すでに原作を読んだことのあるひとにもオススメ。心の底からイヤ~な気持ちになれる(もちろん褒め言葉)こと確実である。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。