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『マギ』 第37巻 大高忍 【日刊マンガガイド】

2018/01/06


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『マギ』



『マギ』 第37巻
大高忍 小学館 ¥429+税
(2017年11月17日発売)


これがみんなの望んでいたものなのか、はたしてそうじゃないのか。
『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』を下敷きに、アラジンとアリババというふたりの若者を主人公として展開されてきた、“究極の魔導冒険譚”の『マギ』が完結。
第37巻を迎えたファンタジー大作は、さて、その果てにどんな終わりを示したのか。

くしくも最終章で描かれていたのは、平たくいえば世界を無に帰す魔法をめぐる極限の戦いだ。
ラストに向けて一気に物語が加速していくなか、運命に抗うべきなのか、従うべきなのかというテーマがそこに導きだされていく。

それこそ、これがみんなの望んでいたものなのか、はたしてそうじゃないのか。それを問いかけもする最終回。
ある世界観のなかで閉じられていく別世界とそこに生まれる新世界というメタ構造は、ファンタジーのひとつの文法で、マギはマギでもまた違う『魔法少女まどか☆マギカ』でも描かれていたもの。
さらに、世界を閉じるという世界観の閉じ方は、もうひとつのメタ構造も生む。
つまりは読者から見て、その終わり方自体、これがみんなの望んでいたものなのか、はたしてそうじゃないのか。

ストーリー性とキャラクター性、戦い、友情、恋愛、散りばめられた謎と体系化された世界観で魅せてきた本作。
『マギ』が提示したのは、いってしまえばそうした魅力さえ無に帰しかねない終わり方でもある。
世界を無に帰そうとするダビデに、彼にあい対するシンドバッドはいう。
「『運命』のまま生きることが… 俺の望みだと思っていた。正しい『運命』に従って世界を導くことは、俺が自分の頭で考えて決めたことだと。」。
それはダビデも認めるところ。
しかしシンドバッドは、こういい放つ。
「いいや? 俺もおまえも… 純粋に、完全に自分の意志で生きたことなどないだろう?」
「夢への執着、仲間たちの願い、家族からの期待、俺たちは常に自分以外の意志に突き動かされて生きている…」。

シンドバッドは、それに抗った行動に出ようとする。
それが彼の意志であり、そしてそれは作者の意志でもあったのかもしれないと思わせる言動と行動。
キャラクター自身が、そのキャラクターを生かされた世界を壊していく。
いや、メタ構造に見えて仕方がない。世界観を押し広げてきた長期連載作品の終わり方、そこにおいての著者の姿勢が見えてくるという意味でも、メタ。
ある意味、かなり挑発的で挑戦的な終わり方にも思えるのだ。

分析好きや裏読み好きな読者にとっては、たまらない結末でもある。
ただ、王道の冒険バトルファンタジーを求めた読者にとっては、物足りなくも過剰でもあったかもしれない。
しかし最後にはそれこそ新しい世界が開けていて、そこもまたメタ構造として、なるほど、ここでこれにつながるのかという、開かれていく帰結感が待つ。
そのカタルシスはだれしも納得で、みんなが望んでいたものじゃないだろうか。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。

単行本情報

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