日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『コミケ童話全集』
『コミケ童話全集』
おのでらさん KADOKAWA ¥1,000+税
(2017年11月24日発売)
助けたツルが神絵師だったら?
石油王が才能あふれる若き同人作家のファンになったら?
ヤクザが借金のカタにラブコメの連載を要求してきたら?
そんなだれもが一度は思いつき……はしないけれども、あくまでもささやかな内容の同人活動・創作活動に関するシチュエーションのアイデアを、清潔感のある絵柄と嫌味のないキャラ立て、そして抜群にキレのよいセリフまわしでもって巧みに転がし、膨らませた短編コミックをまとめた単行本だ。
その魅力をひと言でいえば、「夢がある」といったところだろうか。どの短編も根っからの悪人が登場しない。愛すべき馬鹿はいても、どうしようもなく足を引っ張る役立たずはいない。トラブルはスルスルと解消され、キャラクターたちはギスギスすることがない。ケンカは小競りあい程度で終わり、ドロドロとした感情がぶつかりあうこともない。オタクたちにとって一種のパラダイスのような世界が展開されている。マジ尊い。
そんな本だから、オタクはもちろんのこと、オタクの生態になじみがない、でもこれからその世界をちょっと覗いてみたい……などと考えているような人にもオススメだ。本作を紐解き、愛すべきオタクなキャラクターたちを愛でつつ、マンガの合間に挟まる用語集にパラパラと目をとおすだけで、今どきのオタクの輪郭がつかめるようになっている。
いやされて、ためになる。自分で読むのはもちろんのこと、オタク活動に理解のない恋人や家族にそっと差しだしてみると、相互理解の道が開けたりする……かもしれない。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei