日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『星の王子さま』
『星の王子さま』
漫☆画太郎 集英社 ¥630+税
(2018年1月4日発売)
ギャグ漫画家でありながらあのロシア文学の金字塔『罪と罰』をマンガ化することに大成功した漫☆画太郎先生。
その画太郎先生が次に挑戦したタイトルが、フランスが生んだ児童文学の名作『星の王子さま』だ。
画太郎作品なので、ババアは出てくるし、コピーは使いまくるし、突然の暴力は出てくるし、王子様は全裸だし、なぜか片手に生首を抱えているし、瞳孔が完全に開いているし、持っている斧で他人の足を簡単に切り落とす。要するに通常運転の漫☆画太郎である。
画太郎先生、いつもどおりのおもしろいマンガをありがとう。
しかし、本作のすごいところはそこではない。
こんないつもどおりの酷い内容でありながら、物語はちゃんと『星の王子さま』の原作に沿って物語が展開されるのだ。
飛行士の主人公が不時着した砂漠で王子さまと出会う→○
飛行士が王子さまに羊の絵を描いてあげる→○
王子さまがバラを理由に故郷の星を去る→○
王子さまが地球でキツネと友だちになる→○
王子さまが地理学者の星を訪れる→○
蛇に噛まれるシーンが出てくる→○
ちゃんとこれだけの名シーンを完全網羅!
「本当に大切なものは目に見えない」といった原作の名セリフも画太郎風のアレンジでしっかり登場!
これこそまさに『星の王子さま』の決定版といってもいいだろう!
なのに読み終わったあと、脳裏に残るのは「斧をふりかぶる王子さま」「巨大な足が生えた飛行機」「見開きで大股開きの巨大なババア」「世直しと称して政治家を襲撃する過激派」「医療崩壊する日本」……原作にあったシーンがひとつもないな!
ほぼ原作どおりに物語が進んでいながら、何ひとつ原作どおりではないという、ものすごく奇妙な一作になっている。
もちろん原作を知らない人が読んでも充分おもしろいのだが、原作を読んでから読むとそのギャップと思いきったアレンジに大爆笑必至。
原作を読んだ時に思い描いていた美しい映像が、ページをめくるたびに画太郎先生の力技で塗り替えられていく圧倒的スリル。
コミカライズならではの醍醐味が味わえる珠玉の一作だ!
<文・犬紳士>
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog