『恋のシャレード』
ルネッサンス吉田 祥伝社 ¥ 680+税
(2014年10月10日発売)
文学的素養に裏打ちされた言葉、ささくれだった荒いペンタッチで、痛々しい人々のほとばしる激情を綴り、一部でカルト的支持を集めてきた鬼才・ルネッサンス吉田。一般的には「BLの人」「なんか病んでそう」ってなイメージで、いまいち手を出すのをためらっていた人も少なくないだろう。
が、本作は連載媒体が「フィール・ヤング」ということもあり、いい意味でマイルド。ルネッサンス吉田入門編には格好の一冊だ。
両親が離婚して、衝動的に彼氏と別れて、家には帰りたくないけど行きたいところもない……。モヤモヤした虚無感を抱える女子高生・遥は、以前からお気に入りだった予備校の英語教師・雪ちゃんと、なんとなくセックスして、なんとなくつきあうようになる。
でも、じつは雪ちゃんは、元カノを自殺で喪った過去から立ち直れないでいて――。
衝動的に口をついて出た言葉で、初めて自分の本心に気づいたり。核心に触れるのが怖くって、どうでもいい噓やジョークで笑ってごまかしたり。恋とか好きとかわかんないけど、それなしでは生きられなくて、なんのために生きるのか、目的も希望もみいだせないけど、かといって、死にたいわけでもない。
そんな誰もが「あるある」と頷かずにいられない、せつなく痛い恋や錯綜する人生のワンシーンを、ルネッサンス吉田はメランコリックな抒情と乾いたユーモアで鮮やかに切り取ってみせる。
傷つけ合いながらも一緒にいずにはいられない2人が迎えるラストシーンには、わかりやすい希望や救いこそないが、不思議なカタルシスと暗闇を照らし出す一筋の光にも似た希望が感じられる。
ちなみに各章タイトルには、NUMBER GIRLと向井秀徳を筆頭に、相対性理論、ビートたけしなどの曲名が冠されている。
このセンスにピンと来た人は、必読!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて『おんな漫遊記』連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69