『屋上に咲く花 水あさと短編集』
水あさと KADOKAWA/メディアファクトリー \552+税
(2014年10月23日発売)
作者の水あさとは、日常のなんてことのない出来事を切り取って調理する匠だ。
たとえばこの作品集なら、油絵、蚊に刺された跡、メロンパンなど。身のまわりにある題材を用いて、人と人との、笑いと甘酸っぱさを紡ぎあげていく。
収録されている作品のひとつ「卒業モラトリアム」は、たき火の話だ。
高校の文化祭の後、学校の裏でヒロムとヤエコが先生と一緒に色々なものを燃やしている。模試の結果の紙、点数の悪かったテスト、隠していたエロ本。燃やせば燃やすほどテンションは上がっていく。
燃やすものがだんだん意味深になってくる。
ヤエコが燃やした、中身のわからないラブレター。ヒロムが燃やした、腕を折って振れなくなったバット。最後に燃やしたのは、ヤエコが文化祭の時にかぶっていたキグルミ。
「だってこれ、ふたりで一生懸命作ったし……これ燃やしたら文化祭終わりじゃん……文化祭終わったら……もう卒業式しか残ってないじゃん……卒業したら……うちら……うちら……」
水あさとの才能は、アッパーなテンションと、泣き顔から見ることができる。
テンションが高い時は、頭がおかしいんじゃないかと思うくらいにアクセルを踏み込んでいる。これはアニメ放映中の『デンキ街の本屋さん』や、怪作『マジカルシェフ少女しずる』で見ることができる。
高いテンションになるのには、必ず理由がある。だからこそ、作者の描く泣き顔は、強く印象に残る。
キャラクターたちの人生は、描いたら終わりではない。彼らの未来を匂わせて、短編はそっと幕を閉じる。
主にコミティア(オリジナルの同人誌即売会)で発表されたものが中心の作品集。こちらは甘酸っぱい作品が多め。
同時発売の『男子トイレで待ち合わせ』と合わせて、ぜひ読んでみてほしい。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」