完全版『U-31』上巻
綱本将也(作)吉原基貴(画) 講談社
今年6月に行われたW杯ブラジル大会において、1勝もできずにグループリーグを敗退したサッカー日本代表。
もはやW杯本戦に日本が出場することは当たり前となってしまい、「予選くらい突破してもらわないと困る」というムードが世間的に漂っている。
だが、思い出してほしい。1993年に日本中が絶望した「ドーハの悲劇」を。その4年後に訪れた「ジョホールバルの歓喜」を。
今から17年前の11月16日。サッカー日本代表は初めてW杯(フランス大会)本戦に出場を決めた。日本中が文字どおり歓喜に包まれた瞬間だった。
2004年に「週刊モーニング」で連載をスタートした『U-31』は、日韓合同開催となった02年のW杯直後が舞台。主人公は「ジョホールバルの歓喜」を経て、初めてのW杯本戦を経験した元日本代表の河野敦彦だ。
その後、代表を外れた河野は名門チーム・東京ヴィクトリーでプレイをしていたが、突如戦力外通告を受け、古巣の不人気チーム・ジェム市原に復帰する。しかしジェム市原が河野を獲得したのは、客寄せパンダとしての側面が大きかった……。
原作者の綱本将也は、本作でデビュー。後に『GIANT KILLING』を手掛けて成功を掴むが、本作では打ち切りの憂き目にあっている。河野とともに「アトランタの奇跡」(アトランタ五輪でブラジル代表に初勝利)を戦った欧州帰りの藤堂涼助が登場し、いよいよ代表復帰へ向けて河野が動き出す直前だっただけに、ファンは落胆。
しかし、08年に刊行された上下巻からなる完全版には連載終盤の空白を埋める小説版に加え、真の最終回となる特別編も収録された。
90年代までのサッカーマンガとは一線を画す超リアル路線は、読みごたえ充分。ほかのスポーツと比べて選手寿命が短いプロサッカー選手のジリジリとした苦悩と、それでもサッカーを続けたいという切望がヒシヒシと伝わってくる。
元日本代表として知名度は抜群だが、現実には20代後半でロートル扱いを受け、若手との熾烈なポジション争いを強いられ、チーム事情に代表復帰の命運が左右されてしまう。一番コンディションのいい時期にケガに見舞われることも。W杯は4年スパン。次の大会では31歳になっている現実。時間との戦い……。
華やかに見えても、サッカー選手は壮絶かつ刹那的な職業だということを思い知らされる。
サッカーの、Jリーグの、日本代表への見かたが変わる本物のサッカーマンガ。4年後のW杯ロシア大会に向けて、完全版のイッキ読みをオススメしたい。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」