月に吠えらんねえ 1
清家雪子 講談社 ¥799
(2014年4月23日発売)
物語の世界は「近代□(しかく=詩歌句)街」。近代の詩人・歌人・俳人だけが住まう架空の街を舞台に、歴史上の有名作家がバンバン登場する怪作の誕生だ!
よくぞここまではっちゃけてくれたと感心してしまうのは、その思い切ったキャラクター造型。作家本人ではなく、「作品世界の雰囲気」をもとにキャラクターを作った独特さに目からウロコが落ちる思いだ。「そうそう、こういうのが読みたかったのよ!」と膝を打つ近代文学好きも多いはず。
タイトルからもわかるように、本作の主人公は萩原朔太郎(通称・朔くん)。「小説街」の住人と違って、貧しく奇人変人ぞろいのこの街でも指折りの困ったちゃん。才能はあるのになかなか作品を書けず、飲みすぎたり、屍体を拾ってきてはぼんやり観察していたり……。
「ありそう?」と、笑える箇所も満載だが、本作は決してキャラ萌えを楽しむだけのマンガではない! 師と崇める白さん(北原白秋)の作品に感銘を受ける描写、ミヨシくん(三好達治)と創作の苦悩を語らう場面などからは、文学という魔物に憑かれたものの心情がこれでもかと伝わってくるのだから。
しかし、仮想世界を自在に描いてみせる奔放な想像力には恐れ入ってしまう。カエルのモンスター姿の草野心平、雲の上で寝転がって日の出・日の入りをつかさどる種田山頭火と尾崎放哉あたりもイメージぴったり。「詩のボクシング」ならぬ「句のボクシング」では、筋肉隆々のキョシ(高浜虚子)とヘキゴト(河東碧梧桐)がリングで戦ったり……西脇順三郎は「Cafe JUN」、若山牧水は「居酒屋BOXY」の店主だったり!? なんといっても第一話、盗んだバイクで走り出すチューヤ(中原中也)の姿を見た時点で、この作品に期待しないわけにはいかなかったのだが!
豊潤な作品が多々生まれた時代のアウトローたちを、奇想と奇策で料理する意欲作。ルール無用のマンガの世界といえども、ここまで振り切って遊んだ設定を乗りこなすのがどんなに難しいか……そこに敬意を表しつつ大推薦したい。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
個人ブログ「ド少女文庫」