『電波の城』第1巻
細野不二彦 小学館 \505+税
12月1日は、なにかと電波にまつわる節目となったことの多い日。
2003年の12月1日から地上波デジタルが順次放送が開始され、そして2006年の同じく12月1日に全都道府県(の県庁所在地など一部地域)で受信が可能となったことにちなみ、「デジタル放送の日」と制定されているが、ほかにもBSデジタル放送開始や放送局の開局など、やたらとこの日は電波づくしなのである。
そして、マンガでテレビ業界を舞台にした作品といえば、手塚治虫が視聴率に右往左往する業界人をギャグタッチで描いた『お客様は悪魔です』(手塚治虫漫画全集第325巻に収録)から、主に性的な方面で一世を風靡した『お天気お姉さん』といったものまでいくつか挙げられるが、今回は読みごたえバツグンのサスペンス『電波の城』をチョイスしたい。
作者の細野不二彦はラブコメから社会派ドラマまで、非常に幅広いジャンルの作品を精力的に手がける漫画家として知られるが、なかでも『電波の城』はとりわけ骨太で野心的な作品。
主人公はローカルラジオ局を辞め、テレビのキー局のアナウンサーになるために上京してきた天宮詩織。作品の第一印象は「女子アナの立身出世物語?」かと思いきや、これが新興宗教の暗部まで絡んだ非常に緊張感の高いサスペンスとして展開していくからたまらない。
しかも「正義感あふれる主人公が業界の不正を暴く」などといったノリではなく、多くの秘密をかかえた詩織のピカレスクドラマなのである。
物語の性格上、これ以上ネタバレは控えておくが、詩織と彼女をとり巻く数々の味のあるキャラクター、息もつかせぬ展開、そして衝撃的な結末などなど、どこをとっても「さすが!」のひと言。
実写化しても非常に秀逸なドラマができそうな気がするが、2014年末時点で実現していないのは、やはりテレビ業界の裏側まで描写しているから? などと勘ぐってしまうほど濃密な作品である。
未読の方はぜひご一読のほどを。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。