『商人道 あきんロード』第1巻
細野不二彦 小学館 \552+税
(2014年9月30日発売)
私感だけれど、手塚治虫を継ぐ描き手がいるとするなら、細野不二彦なんじゃないかなぁと思ったことがある。
物語の大きなプロットに主人公の深いレゾンデートルを見事に絡ませながら、さまざまなキャラクターとエピソードで伏線を張り、絵にも展開にもマンガ的誇張を用いながら読者を引っ張っていく手法からだ。
もちろん、そうして物語を紡ぐ描き手はほかにもいるのだけれど、特にそれを強く感じさせたのはボクシングマンガ『太郎』。プロットの巧みさに加えて、戦う身体の表現を人体解剖図やイメージ画でよりマンガ的に見せていくあたりに、脳でも身体でも作品を描き上げている、描き手のすごみを感じたものだ。
こじつけかもしれないが、シチュエーションミステリーということでは、『ギャラリーフェイク』などは、細野版『ブラック・ジャック』と思える……というのは言いすぎだろうか。
その細野不二彦の最新作が、『商人道』だ。女の業・宗教・メディア論という題材を見事に描き切った前作『電波の城』を受けて描き出すのは、商社マンたちの熱苦しいまでの熱き戦い。そのバイタリティと、止まったら死んでしまうんじゃないかという働きぶりで「マグロ男(マン)」と称されるヒノマル物産入社7年目の大佛晃人(おさらぎ あきひと)は、課長の責任を押し付けられ、理不尽な異動を命じられる。
そんななか、社内で「大ヤマ師」と呼ばれる熊代常務から、「メーク レジェンド!!(伝説をつくれ)」と彼のチームへ誘われる。熊代が企画する新しいプロジェクトとは、中国大陸におけるシェールガスの発掘。
「でっかい商売やりとげて、本物の商人(あきんど)になりてぇんだ!!」と意を決して、さっそく中国へ向かう晃人だったが、そこに待っていたのはトラブルばかり。
また、熊代のライバルである亀和田専務、北京国家エネルギー局長、資源エネルギー庁石油ガス課長・鮎川、シェールガス開発局長代理・ワンフェイといった、ひとクセもふたクセもある人物たちが、晃人の出方を見ていて、先行きは前途多難!
1巻はまだ起承転結の“起”の振りの部分だが、テンポいい話運びとそれぞれのキャラクターのフクの強い個性で、確実におもしろくなっていきそうな予感だ。また同時進行で描かれていく晃人の貧しかった過去=バックボーンにも、熱いドラマがある。
『商人道 あきんロード』も手塚になぞらえて考えるならば、本作は手塚治虫が同じく商社マンを扱った『グリンゴ』ということになるだろうか。
ちなみに『グリンゴ』は、手塚未完の作品。中年で左遷された『グリンゴ』の主人公・日本人(ひもと ひとし)に比べたら、若く、精力あふれる晃人が、どんな“あきんロード”を歩んでいくのか楽しみだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。