『栄光なき天才たち』第4巻
伊藤智義(作)森田信吾(画) 集英社
12月4日は血清療法の日。1890年のこの日にエミール・ベーリングと北里柴三郎が血清療法の開発につながる破傷風とジフテリアの免疫体を発見したことから、記念日が制定された。
血清療法とは、抗体のある血清を患者に注射することで、体内に入った毒素を中和して無力化する治療法である。予防接種の原理の発明というとわかりやすいだろう。
この世界的な発見で、共同研究者であるベーリングが1901年に第1回ノーベル医学生理学賞を受賞した一方、北里が受賞を逃したのは腑に落ちない。しかも共同研究とはいえ、実際は北里が先導していたのは有名な事実で……当時、東洋人差別的な思惑が働いたと想像するのはあながちまちがっていないのではないだろうか。
偉業を成し遂げるも、世間的な栄華とは無縁。『栄光なき天才たち』は、そんな人々に光を当てたシリーズ作品。
医学界では北里柴三郎はじめ、梅毒や黄熱病の研究で知られる野口英世、世界で初めて人工ガンの発生に成功した山際勝三郎などが描かれている。
北里は留学先のドイツで、「あんな日本人に何ができるんだ?」と冷ややかな目線を浴びせられながらも実験に没頭し、世界で初めて破傷風菌を純粋培養することに成功。さらには少量の破傷風菌を健康なマウスに注入する実験を始めるが、これも当初はまったく周囲に理解されないものだった。
血清療法を発見し世界の医学界の注目を集めながらも、日本に帰国した北里は派閥争いなどに巻きこまれ、ことごとく苦難を強いられる。
くだらない世事にわずらわさつつも、真に「人命を救うために研究を続けること」だけを見つめ続けた北里の姿勢が、やがて多くの人に支持され、後進を生んでいく展開に胸がすく。
コンパクトながらその時代、人物をしっかりと紹介する評伝マンガの名作である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」