『スティーブ・ジョブズ』第1巻
ウォルター・アイザックソン(作) ヤマザキマリ(画) 講談社 \619+税
2001年10月23日、この日はアップル社が初代iPodを発表した日。
一時はMacの売上が低迷し、会社そのものが危機にまで陥っていたアップル社が復活をとげ、大きく躍進する決定打となったのは、やはりiPodの爆発的ヒットだと言えるだろう。単に商品として売れただけでなく、iPodによって生活と音楽の関わりに「革命」がもたらされたといっても過言ではない。
iPodのヒットを語るについて欠かせないのが、言うまでもなくスティーブ・ジョブズの存在だ。
その彼を描いたマンガといえば、ズバリ『スティーブ・ジョブズ』。作者は『テルマエ・ロマエ』で知られるヤマザキマリだ。最初は正直、「えっ? なんで?」という取り合わせに思えたが(掲載誌が女性向けの漫画誌「Kiss」なのも驚きに拍車をかけた)、読んでみるとこれがみごとにどハマリ!
原作はジョブズの死後まもなく発売されて話題となった、ウォルター・アイザックソンによる伝記。それを忠実にビジュアル化した作品のため、単行本第1巻では、ジョブズがインドを放浪する旅に出るまでをみっちり描き、アップル社がまったく登場しないまま終了。第2巻でようやく、もうひとりのスティーブであるウォズニアックとアップル社を創設……と、丁寧に物語は進行している。
しかし、それでも原作に比べればかなりメリハリの効いた展開となっている。伝記をすでに読んでいる人でも、マンガならではの起伏とリズムをつけられた物語は、新鮮な気持ちで読むことができるだろう。
ヤマザキマリ本人の言によれば、彼女は生前のジョブズをあまり好きではなかったそうである。だからこそなのかもしれないが、必要以上に美化されず、どこか淡々と描かれるジョブズは、かえって「マンガのキャラクター」として成立しているようにも感じられる。
この鼻持ちならないジョブズを描く本作は、現時点ではまだ連載が進行中。最初のころは控えめだったヤマザキマリらしい表現も増し増しとなり、もはや伝記ということを抜きにして続きが気になる。作中にiPodが登場するのはまだまだ先になりそうだが、そこに至るまでの過程を存分に楽しんでおこう。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。