『気まぐれコンセプト クロニクル』
ホイチョイ・プロダクションズ 小学館 \2,200+税
ちょうど四半世紀前の今日、日経平均株価が1950年の算出開始以来、最高値を記録した。
ザラ場中の3万8957円をピークに、終値は3万8915円。
アベノミクスだなんだと大騒ぎしても、2014年の株価は12月8日につけた1万8030円が年初来高値。倍以上の開きがあることをかんがみれば、当時の日本がどれだけイケイケだったかうかがい知れる。
のちに「バブル」と呼ばれることになるこの好景気は、急激な円高を生んだ1985年のプラザ合意が引き金。政府が円高不況を懸念して超低金利制作をとったことで、マーケットが金余り状態になり、個人レベルまで投機熱が加速。土地も株も絵画もすべての価格が急上昇したのだ。
しかし、実態をともなわない異様な好景気は90年代に入るとあっけなく終焉を迎え、“失われた20年”が訪れる。
このバブル景気でウハウハだったのが広告業界。当時のテレビCMを観ていると、驚くほどお金がかかっていて驚かされる。
それにくらべて現在のテレビCMは簡素の一言。もちろん雑誌、新聞など紙媒体の広告しかりである。
1981年に「ビッグコミックスピリッツ」で始まった『気まぐれコンセプト』は、クリエイターグループのホイチョイ・プロダクションズが手がける見開き4コマ。33年目を迎えた現在も同誌で続いている。
広告業界の舞台裏をコミカルに描きながら、時事ネタをふんだんに取り入れるスタイルは不動だ。
ホイチョイ自身が流行を生み出すことも多く、原作を担当した1987年の映画『私をスキーに連れてって』をきっかけに、空前のスキーブームが勃発。白いウエアに身を包んだ原田知世(当時19歳)のキュートさに男子は骨抜きにされ、三上博史の颯爽たる滑走シーンに女子はメロメロに。
そんな2人がゲレンデで運命の出会いを果たすラブストーリーを見て、若者たちはこぞって白銀の世界につめかけた。
『気まぐれコンセプト』は、1984年に一度コミックスになったきりだったが、2007年に23年分の作品を再編集した『気まぐれコンセプト クロニクル』が刊行された。
1984年から2006年まで年代順に抜粋された4コマが並んでおり、これを読むだけでバブル前夜からバブル絶頂、バブル崩壊から暗黒の90年代、携帯電話やネットの普及までが見てとれる。
1989年の項を開いてみると、新元号(平成)の発表から始まり、シティホテルの経営戦略、ゴディバのチョコレートなど、それっぽいネタが続く。六本木、ボディコン、キャンギャルといったバブルの代名詞も随所に登場。
タクシーをつかまえるために1万円札を掲げて振るという行為も、サンタクロースに絡めてギャグにされている(終電をなくした歓楽街の人たちが「ソリに乗せてくれ~」と叫ぶ)。
このあたりはホイチョイ原作の2007年の映画『バブルへGO!!タイムマシンはドラム式』にも詳しい。
というか、そもそもこの『クロニクル』は映画とあわせて展開されたもの。映画の原作になった8ページのストーリーマンガ「バブル崩壊を阻止せよ!」(2004年7月26日発売号掲載分)も収録されている。
1000ページ近くもあるので、コミックスというよりは辞典のような趣だが、100年、200年先に、日本の歴史を語るうえで貴重な記録となることは間違いない。
いつになるのかわからないが、2007年以降の刊行も楽しみに待ちたい。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」