『コミティア30thクロニクル』第3巻
コミティア実行委員会(編) 双葉社 \1500+税
(2014年11月26日発売)
印刷費や制作用品が安価になったおかげで、誰しも手軽に個人制作冊子=同人誌を制作できる時代となった。
とりわけマンガというジャンルではその恩恵が大きく、今や数えきれないほどのマンガ同人誌が発行されている現状。だが、皆様はマンガ同人誌という存在についてどれくらいご存知だろうか?
マンガ同人誌といえば、成人向けの二次創作のことであり、同人誌即売会といえば「コミックマーケット」(通称・コミケ)のことだろう……と思った人。たしかにそれらは同人誌界隈においての最大派閥であり、いち側面として必ずしもまちがっているわけではないのだが、成人向けやパロディ作品を含む二次創作だけが、マンガ同人誌のすべてではない。
オリジナル(一次創作)ストーリーをあつかった同人誌と、そういった同人誌のみを取り扱う同人誌即売会も、少なからず存在する。
そんな「創作マンガ同人誌」の即売会のなかでも、国内最大級の規模を誇るのが「COMITIA」(コミティア)である。
1984年から始まったCOMITIAは、東京を中心に全国各地で開催されており、通算200を超える開催回数を持つ、老舗イベントなのだ。
そんなCOMITIAが、この度、開催30周年記念を祝し、双葉社より『コミティア30thクロニクル』を刊行した。
全3巻で1冊600ページ超という圧巻のボリュームの本シリーズは、過去「COMITIA」において発表された、プロの漫画家の作品を中心に収録。内藤泰弘、小田扉、あらゐけいいち、水谷フーカ、TAGRO、九井諒子、太田モアレ、位置原光Zなどの漫画家がそろった第1集、ONE、水あさと、今井哲也、田中相、panpanya、カヅホ、A-10、西村ツチカなどの作品を収録した第2集、そして完結となる第3集に収録されているのは、オノ・ナツメ、山川直人、岩岡ヒサエ、塩野干支郎次、犬上すくね、こうの史代など。そうそうたる顔ぶれだ。
目玉と呼べる作家があまりにも多すぎるため、これ以上漫画家名を列挙するのはやめておくが、その豪華すぎるラインナップは一見の価値あり。
「いくら有名作家が描いたとはいえ、同人誌のマンガなんて、しょせん商業マンガになりきれなかった2軍作品なのだろう」と侮るなかれ。
出版社を通さない同人誌という媒体だからこそ可能である、流行や需要などを度外視したテーマの多様性、そこからにじみ出る荒々しくみずみずしい表現の数々。そして様々な実験的試みから描きだされた作品群は、商業ベースの作品を追っているだけでは決して出会えない、異端の輝きを放っており、マンガ表現のさらなる可能性を感じさせてくれる。
様々な魅力を内包した本シリーズが、たぐいまれなる名著であることは疑いようのない事実だが、これは30年もの長きにわたる「COMITIA」史の、ほんの一握りでしかない。残念ながら収録から漏れでてしまった傑作マンガ同人誌は、数えきれないほど存在しているのが実情だ。
だからこそ、本書を読んで少しでも感じるものがあったのならば、ぜひ現実の「COMITIA」の会場へと足を向けてほしい。そこではマンガファン垂涎のさらなる名作・奇作たちが、列をなしてあなたを待っており、決して退屈させないだろうから。
<文・一ノ瀬謹和>
涼しい部屋での読書を何よりも好む、もやし系ライター。マンガ以外では特撮ヒーロー関連の書籍で執筆することも。好きな怪獣戦艦はキングジョーグ。