『おかえりなさいサナギさん』第1巻
施川ユウキ 秋田書店 \600+税
(2014年12月10日発売)
いつも笑顔のサナギさんと、表情の変わらないフユちゃん。この2人を軸に、言葉遊びを組み上げていくマンガだ。
2004年から「週刊少年チャンピオン」で連載されていた『サナギさん』の続編に当たるので、タイトルに「おかえりなさい」とついているが、ここから読んでもまったく問題はない。
たとえば2人が、妖怪・小豆あらいに「カッコイイあおり文句」をつける4コマがある。
フユちゃん「世界恐慌なんのその、小豆相場で動いた資金を、ケイマン諸島で洗浄(ロンダリング)……、小豆洗い!!」
サナギさん「小豆洗いすげー!!」
フユちゃんの発想と、言葉づかいのリズム。そしてどっから引っ張ってきたのかわからない知識力がすげえ!
お題をひとつもうけ、会話のなかでフユちゃんがボケを入れ、サナギさんが驚く。漫才のボケツッコミの形式を女の子2人にうまくかぶせていく。かなりブラックなネタも多い。
フユちゃん「働けど働けど我が暮らし楽にならざり、じっと手を見る……ここで言う「働く」は「暴行を」なんだけど」
人が死ぬのも、ネコが殺されるのも、アリを踏みつぶすのも、おいしいものを食べるのも、年賀状を送るのも、すべて同一の「日常の会話」として描かれる。
このフラットな感覚は、本誌『このマンガがすごい!2013』オトコ編ランキングで第9位を獲得した『オンノジ』や、別名義で原作を手がけている『少年Y』などにも通じている。
さて、先ほどの妖怪あおり文句の続き。2人がお互いにあおり文句をつける4コマが入る。
サナギさんはフユちゃんをこう称する。
「おどろき桃の木、奇抜な発想、見せてくれるよゆかいな友達、フユちゃん!」
フユちゃんは赤面しながら、サナギさんをこう称する。
「私の友達……サナギさん!」
まったく変わらないボケとツッコミの日常は、2人の友情を少しずつ深めていく。だからこのマンガは、安心してゲラゲラ笑える。
改めて言いたい。おかえりなさい!
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」