『鬼灯の冷徹』第1巻
江口夏実 講談社 \552+税
毎年1月16日と7月16日は「閻魔賽日」、すなわち地獄の釜の蓋が開いて、鬼も亡者も休むとされる日である。この日は寺院で、十王図や地獄相変図を拝んだり、閻魔堂に参詣したりする「十王詣」を行う。
一方人間界では、商家の奉公人がこの日だけは仕事を休んで実家に帰れる「藪入り」でもある。1月16日は「初閻魔」といい、旧暦の7月16日前後を「盂蘭盆」、すなわち「お盆」といって、休みをもらった祖先の霊が現世に里帰りをするというワケ。
閻魔大王は言わずと知れた地獄の王。死者の生前の罪を裁き、彼らのおもむくべき地獄を指定する神である。
日々人口(?)がふくれあがる広大な地獄で、様々なトラブルに対処するのも閻魔大王……ではなくて、じつは閻魔大王の第一補佐官・鬼灯だった! ……というのが、江口夏実『鬼灯の冷徹』の世界観。
本作は、地獄で毎日のように起こる騒動を冷徹でドSな鬼神・鬼灯がクールにこなしていく物語。
上司にあたる閻魔大王はといえば、法廷以外では威厳のカケラもない温厚かつ呑気な人物。激務に音を上げては鬼灯にツッコまれ、仕事がない時でもだいたいイジられている。
ちなみに、この世界でのお盆は第23話「盂蘭盆地獄祭」(第4巻収録)で描かれる。いうなれば地獄で亡者を責めさいなむ獄卒の夏休みということで、彼らも年に一度の祭りで大いに羽をのばす。
そして深夜0時。日付が変わるころになると彼らは、現世に残ろうとする亡者を強制連行する過酷な業務に戻るのだ。
「ちゃんと休みがとれるなんて、けっこうよい職場なんじゃない?」と思ったアナタ! 地獄行きをねらって現世で悪いコトしちゃだめですよ!
<文・富士見大>
編集プロダクション・コンテンツボックスの座付きライター。『衝撃ゴウライガン!!兆全集』(廣済堂出版)、『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、平成25年度「日本特撮に関する調査報告」ほかに参加する。