『神戸在住』第1巻
木村紺 講談社 \600+税
1995年1月17日――。
この日はあの阪神・淡路大震災がおきたことで永く記憶にとどめておくべき日。
現在、少なくとも神戸の都市部の多くにおいては、そんな大きな悲劇があったことがうかがえないほどの復興をとげているが、それでもまだ裏路地には痕跡を見つけることもあるし、何よりも心に刻まれたダメージは、まだ消えないという人もいることだろう。
そんな震災後の神戸を舞台にした作品が、今回紹介する『神戸在住』。
神戸の町並み描写、そしてじつは大阪弁とはビミョーに違う神戸の言葉の再現っぷりが特徴で、読んでいるだけで神戸にいるような気分になる作品だが、極めてリアルな神戸での日常会話のなかに、たびたび震災体験が登場している。
とくに第1巻の終盤において、登場人物のひとりである和歌子の視点で2話分をかけて描かれる震災体験は、非常に生々しい。
しかし、本作はむしろ、震災そのものよりも、その後の日常に焦点を当てたエピソードが多い。
基本的には1話完結のエッセイ風の作品であり、すべての話が震災をテーマとしているわけではない。しかし「震災があった」ということを大前提とした日常描写は、東日本大震災後にことさら強調された「絆」とは少しニュアンスの違う、もっとゆるやかな「人の縁」というようなものによって、ゆっくりと傷が薄れていく様を描いている、というとらえ方もできるのではないだろうか。
なお、本作はこの記事が配信されるのと同日の2015年1月17日、実写映画とドラマが公開される。
この繊細な物語がどう映像化されているのか、そちらにも注目しよう。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。