『日本沈没』第1巻
一色登希彦(作)小松左京(画) 小学館 \524+税
1938年10月30日、この日にアメリカのラジオ番組で放送されたオーソン・ウェルズ演出による『宇宙戦争』は、それを本当の事件だと勘違いした聴取者たちをパニックに陥れた……とされる。
もっとも、その騒動自体が一種の都市伝説であり、実際は「ラジオ局に問い合わせが殺到した」程度だったという説が現在では有力なのだが、報道番組やドキュメンタリーを模した演出は、当時の市民がパニックになるほど迫真のドラマであったことだろう。
さて、マンガで迫真のパニックを味わえる作品としてぜひ紹介しておきたいのが、一色登希彦版の『日本沈没』だ。
原作はもちろん、1973年に刊行された小松左京による小説。同年に映画化もされ、さらにテレビドラマ化もされた。そして同時期にさいとう・プロ作品としてコミカライズもされているが、現在の視点で読むのであれば、一色登希彦版を強くプッシュしておきたい。
06年にリメイクされた映画に合わせるような形で連載がスタートした本作は、1970年代にはまだ確立されていなかった科学的見地や、9.11をはじめとした国際社会での出来事を取り入れ、さらに小説・映画・ドラマとある『日本沈没』すべての要素を内包しつつ再構築された、いわばリブート版というべき作品。
そして、若干ビミョー……と言わざるをえない06年版の映画とは、キャラ設定が一部取り入れられている以外は、いい意味でまったく別物である。
その内容といえば、地震や津波の描写がより今日的にリアリティを増しているため、読んでいて背筋がゾッとするほど。なにが恐ろしいって、東日本大震災以前に描かれた作品にもかかわらず、かなりの点で重なる描写があることだ。これを読めば、火山の噴火や連続する地震にも心穏やかでいられないかも?
第1部・完となっている結末については正直「えっ?」という感もあるが、作中の大災害がフィクションであるうちに読んでおくのがオススメ。現実のものとなってからでは、とても楽しめませんから……!
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。