日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『吸血鬼すぐ死ぬ』
『吸血鬼すぐ死ぬ』第1巻
盆ノ木 至 秋田書店 ¥419+税
(2015年12月8日発売)
真祖にして無敵と恐れられる吸血鬼・ドラルクに挑む吸血鬼退治人(バンパイアハンター)・ロナルド。
しかし実際のドラルクは、ドアにはさまれて、ガキのケリ一発で、弱チョップで、おばちゃんタックルで、さらには街頭で自分だけティッシュをもらえなかったショックでと、あらゆる場面で「スナァ」「スナァ」と崩れさり、他者を寄せつけないザコっぷりを見せつける最弱な吸血鬼だった。
2015年30号から「週刊少年チャンピオン」で連載中の『吸血鬼すぐ死ぬ』は、タイトルどおりのザコ吸血鬼・ドラルクと、苦労人気質の吸血鬼退治人・ロナルドのドタバタ同居コメディ。 なぜかコンビを組むはめになった2人の、小ボケて小ボケて小ボケまくるスラップスティックの連続が楽しめる、盆ノ木 至の初単行本。
舞台となるのは新横浜伊奈架町。吸血鬼が普通に存在し、それに対抗するバンパイアハンターがたくさんいる世界観だ。
彼らハンターは新横浜あたりの退治人が所属するハンターズギルドに属し、ギルドマスターが運営する「新横浜ハイボール」に集って情報交換などを行っている。供給過多気味のバンパイアハンターは人気が第一の商売なので、どの退治人も独自の衣装に身を包み指名を増やそうと必死にがんばっている。
ある時はバンパイアハンターとして仮性吸血鬼、下等吸血鬼・スラミドロ、変身能力を持った吸血鬼などを相手どったり、ある時は所轄である神奈川県警の吸血鬼対策課の追求をかわしたり、またある時は何より恐ろしいロナルドの自伝小説の担当編集・フクマさんの原稿取りにおびえたりと、ドタバタとした2人のコンビ生活が描かれる。
そして、ひ弱なドラルクの身を案じるほぼ唯一の存在であるアルマジロのジョン。
このジョンが何かとけなげでかわいい。
そもそも吸血鬼の使い魔がなぜアルマジロ? と思ったら、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』を初めて映画化した『魔人ドラキュラ』(1931年、ベラ・ルゴシ主演)に、ドラキュラ城に住みついているアルマジロが出てくるそうな。
ドラキュラとアルマジロってじつは隠れ定番の組みあわせだったのだ。アルマジロの鳴き声が「ヌー」なのかどうかは謎ですが。
あと、なにげに気になるポイントとして、作品中に出てくる既製品のもじりが「ヴォンヴァーマン」とか「ヴァヴリーズ」とか「ヴァミマ」とか、バンパイアものなせいかヴァ行が多いことも挙げておこう。
「週刊少年チャンピオン」といえば背脂チャッチャ系の男臭い作品を思い浮かべる方も多いかもしれないが、本作はけっこう女性ファンも多い。股間から生やしたゼラニウムを縦横無尽に操る露出系吸血鬼・ゼンラニウムや、ボンデージファッションの“ゲテモノ調教師”シーニャ・シリスキーなど下ネタもたびたび登場するが、清潔感のあるタッチでイヤ味を感じさせず人にもおススメしやすい。
「そんなに死ぬの?」と思ったアナタ。きっと想像以上に死んでるので、ぜひ手にとってご確認を!
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。